◆リィナ①◆足りないもの

リィナとよるのないまち

 かみさまとリィナ、ガルーダは、大きなビンをはこぼうとしましたが、大きくておもくて、とてもはこぶことが出来ません。

「ワシもとしじゃのう。よし、一つ、まほうをつかってみようか。リィナちゃん、そのつえをとってくれんかね?」
「これ? はい、どうぞ」
「ありがとう」

 リィナはかべに立てかけてあった、先がとんがって頭がグルグルうずまきの、木で出来たつえをかみさまにわたしました。ただのつえに見えるけど、これはどうやら、まほうのつえのようです。

「見ていてごらん」

 かみさまは、グルグルうずまきを夜のもとの入ったビンにむけました。そして、えいっとじゅもんをとなえると……。

「わぁ! すごい!」

 プカプカと、あんなにおもたかったビンがういているではありませんか。ビンがうごく、と中でたぷんたぷんと夜のもともうごきます。

 はじめてのまほうに、リィナは目をかがやかせ、とってもステキなえ顔を見せます。本当に、うれしそう。

「さぁ、これならいいじゃろう。外に行こうかねぇ」
「うん!」

 みんなでいっしょに、おしろの外に出ました。なんとなく、外で夜のもとを見てみると、おへやの中で見るよりも、もっとキレイに見える気がしました。
 みんなでむかったのは、おしろがたつ、くものはしっこ。

「ところで、リィナちゃんたちは、どうやってここまで来たんじゃ? ふつうには、これんじゃろうて」
「あのね、くもくんのお母さんにのせてもらったの! くもくんはね、お友だちなんだよ!」
「ほうほう。リィナちゃんはすごいのう。ガルーダとも、くもともお友だちになれるなんて」
「なんで?」
「そうじゃのう、きっと、大人が見たらビックリするからのう。だから、すごいんじゃよ」
「ふーん。リィナ、よく分からないけど、すごいのはいいことだよね!」

 ほめられてリィナはルンルン気分。そんなリィナを見て、ガルーダもどこかうれしそうです。

「人間が、ワシの所に来たのはこれがはじめてじゃ。こわくなかったかい?」
「こわくなかったよ! だって、ガルーダさんもいるし。それに、お母さんに夜を見せたいから。リィナはがんばれるよ」
「……そうか。だからここまで来れたのかもしれんのう。よし、とっておきじゃ」

 かみさまは、今どはリィナとガルーダにむかってグルグルうずまきをむけました。

「ガルーダもまだ子ども。たくさんはとべん。そぉれ」

 かみさまのまほう。おつぎは……

「わわわっ! すごい! リィナお空をとんでる!」

 リィナの体がちゅうにうきます。足はくもからはなれてパタパタ。手をうごかせば、スーイスイ。

「ビンといっしょに、リィナちゃんの町に行く。そうして、そこでこのビンをひっくりかえせば、リィナちゃんの町に夜が広がるんじゃよ」

 パアァァァアと、リィナの顔が明るくなりました。これでやっと、お母さんに夜を見せることが出来る。

「早く! かみさま早く行こう!」
「はいはい。おやおや、そんなにいそがずとも……はっはっはっ。もとはかみさまがわすれてたからのう。ごめんなぁ」
「いいよ! かみさまごめんなさいしてくれたもん! リィナは良いよって言うの!」

 大きな空をとびながら、リィナはとってもゴキゲンです。ガルーダも、いつもはとべない高い空をとんで、とっても楽しそう。

 むかうはリィナの町。今はまだ、夜のない町。

 くもをこえて、今どはどんどんとにじからはなれていきます。大きく見えたかみさまのおしろも、あっという間にあんなに小さくなりました。

 リィナが町を出た時、空はお日さまがてって、まだまだ明るい青空でした。でも今は、こいオレンジ色と、むらさき色をまぜた色に。

 ずんずん進んで、見えてきたのはリィナの町。リィナのまちも、うっすらとオレンジ色にそまっています。ここまでは、リィナもよく見る空の色。夕方の色です。
 それでも、さっき見た空の色にくらべたらまだまだ明るく夜は遠くのそんざいです。

 もうすぐ夜の色が見られると思うと、リィナはウズウズ。ソワソワ。そんなリィナを見て、ガルーダもウズウズ。ソワソワ。

「このあたりで良いかのう。リィナちゃん、そのビンをかたむけて、中の夜のもとをふりまいてくれるかな?」
「はぁい! フタを取って……」

 きゅぽん、と音を立てて外れたコルクのフタは、かみさまにあずけます。そうして、大きなビンを、ゆっくりとゆっくりと、リィナのまちの空にむかってかたむけていきました。

 トクトクトクトク。

 ビンから流れ落ちる夜のもとは、

 サラサラサラサラ。

 やがて、細かなすなのように、空全体に広がっていきます。

 夜が広がった空は、上の方は黒色で、真ん中はむらさきいろで、その下はこいオレンジ色で、うすいオレンジ色も少しだけ見えます。

「わぁ……わぁ! これが、これが、夜!?」

 リィナはだいこうふんです。

「そうじゃよ。でも、この黒とむらさきが、もっとたくさんになるんじゃよ。そうしたら、お月さまとお星さまが……あっ!」

 かみさまは、何かを思い出しました。それもそれも、とっても大切なことを。

「あぁあぁ、大へんじゃ。お星さまとお月さまに、このまちもてらすようたのむのをわすれておった!」
「それって、どういうこと?」
「つまり、このままではリィナちゃんの町の夜は、お星さまとお月さまの光がなくて、まっくらになってしまうということじゃ!」
「ええっ! どうしよう、そんなの大へ?!」

 かみさまもリィナもおおあわて。

「しかたない、リィナちゃん、あそこの丸くて黄色いものが見えるかね?」

 かみさまがゆびさしたのは、大きな大きな丸いお月さま。

「見えるよ、あの黄色くてまん丸なのが、お月さまね」
「そうじゃそうじゃ。一つ、お月さまの所まで行って、この町をてらすように伝えてはくれんかのう」
「わかった! リィナ、行ってくる!」
「たのんじゃぞ。ワシはここで、夜のもとを全てふりまいておくからの」

かみさまにたのまれたリィナは、ガルーダとともに、お月さまの元へととび立ちました。

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