自分の性格、周りの性格
はじめに
「この子はお父さんそっくりだね」
「私は昔からこういう性格だから」
そんな言葉を、日常の中で何気なく使っている方は多いと思います。
けれど、性格は本当に生まれつき決まっているものなのでしょうか。
遺伝で決まる部分と、育った環境で形づくられる部分は、どのくらいの割合なのでしょうか。
この記事では、心理学と行動遺伝学の知見をもとに、性格と遺伝の関係をできるだけやさしく整理しながら「自分らしさ」はどこから来るのかを考えていきます。
性格は「全部遺伝」でも「全部環境」でもありません
まず結論からお伝えすると、性格は遺伝と環境の両方によって形づくられます。
どちらか一方だけで決まるわけではありません。
心理学の研究では、性格特性のおよそ三割から五割程度が遺伝の影響を受けていると考えられているそうです。
つまり、半分以上は生まれてからの経験や環境が関係しているということです。
「思ったより遺伝の影響が大きい」と感じる方もいれば、「思ったより少ない」と感じる方もいるかもしれません。
ここで大切なのは、遺伝は性格の設計図そのものではなく、傾向やなりやすさを示すものだという点です。
遺伝が影響しやすい性格の要素
遺伝の影響を受けやすいのは、感情の反応の仕方や刺激への敏感さといった、比較的ベースとなる部分です。
例えば次のような要素です。
・新しい環境に対して緊張しやすいかどうか。
・音や人混みに敏感かどうか。
・感情の揺れが大きいか穏やかか。
・活発で外向的か、内向的で静かな方か。
これらは、赤ちゃんの頃からある程度の個人差が見られます。
同じように育てていても、泣きやすい子もいれば、比較的落ち着いている子もいます。
この違いには、遺伝的な気質が関係していると考えられています。
ただし、ここで注意したいのは「遺伝=変えられない」という意味ではないということです。
環境は性格の「表れ方」を大きく変えます
遺伝はあくまで土台のようなものです。
その土台の上に、どんな経験を重ねるかによって、性格の表れ方は大きく変わります。
例えば、もともと不安を感じやすい気質を持っていたとしても、安心できる環境で育ち、失敗しても受け止めてもらえる経験を重ねると、慎重で思慮深い性格として表れることがあります。
一方で、同じ気質を持っていても、常に否定されたり、緊張の多い環境で育つと、怖がりで自信を持ちにくい性格として固定されやすくなります。
つまり、遺伝は性格の方向性を決める要素の一つではありますが、その方向にどう進むかは、環境によって大きく左右されるのです。
私自身が感じてきた「性格は決まっていない」という実感
私自身、長い間「これはもう性格だから仕方がない」と思ってきた部分がありました。
人前で意見を言うのが苦手なことや、失敗を必要以上に引きずってしまうことも「生まれつき慎重な性格だから」と説明してきたように思います。
けれど、環境が変わったとき、同じ自分なのに反応が変わる場面に何度も出会いました。
安心して話を聞いてもらえる場所では、不思議と考えを言葉にできるようになり、逆に常に評価される空気の中では、より黙り込んでしまう。
そのたびに「性格そのものが変わった」というより「性格のどの部分が表に出るかが変わったのだ」と感じるようになりました。
心理学を学びながら振り返ると、自分の性格だと思っていたものの多くは、遺伝的な気質に環境が重なってできた“反応のクセ”だったのかもしれません。
そう気づいてからは「性格だから無理」と決めつけるより「この傾向はどんな場面で強く出るのか」「どうすれば楽に扱えるのか」と考えられるようになりました。
性格は固定されたラベルではなく、その時々の環境や経験によって表情を変えるもの。
この実感は、性格と遺伝の話を理解するうえで、私にとって大きな支えになっています。
同じ遺伝子でも、同じ性格になるとは限りません
双子の研究は、遺伝と性格の関係を知るうえでよく知られています。
一卵性双生児はほぼ同じ遺伝子を持っていますが、それでも性格が完全に同じになることはありません。
大人になるにつれて、価値観や行動パターンに違いが出てくることも多くあります。
これは、それぞれが体験してきた出来事、人間関係、成功や失敗の積み重ねが異なるからです。
このことからも、性格は「生まれつき決められたもの」というより「遺伝という土台の上に、経験が積み重なって形づくられるもの」と考える方が自然だと言えます。
性格は固定されたものではなく「傾向」です
心理学では、性格を「変えられない性質」としてではなく「ある程度安定した傾向」として捉えます。
傾向とは「こうなりやすい」「こう反応しやすい」という方向性のことです。
例えば、内向的な人が外向的な人になることは難しくても、人前で話す力を身につけたり、自分なりのペースで人と関わる方法を見つけたりすることはできます。
外向的な人も、落ち着いて一人で考える時間を大切にする習慣を身につけることができます。
性格は白か黒かではなく、幅のあるグラデーションのようなものです。
遺伝で決まるのは、そのグラデーションの位置や幅の一部に過ぎません。
「性格だから仕方ない」と思いすぎなくていい理由
性格を遺伝のせいだと考えすぎると「どうせ変わらない」と感じてしまうことがあります。
けれど、心理学の視点では、性格は成長とともに少しずつ調整されていくものだと考えられています。
環境や経験によって、反応の仕方や考え方は変化します。
それは、無理に別人になるという意味ではありません。
もともとの気質を理解したうえで、自分に合った生き方を選び直すということです。
「自分はこういう傾向がある」と知ることは、諦めではなく、扱い方を学ぶための第一歩になります。
おわりに
性格は、遺伝と環境が重なり合って生まれるものです。
生まれつきの気質は確かに存在しますが、それだけで人生が決まるわけではありません。
これまでの経験、周囲との関わり、自分なりに考えてきたこと。
それらすべてが、今のあなたの性格を形づくっています。
もし「この性格は変えられないから」と苦しく感じているなら「これは傾向の一つに過ぎない」と少し視点を変えてみてください。
性格は固定された枠ではなく、理解しながら付き合っていくパートナーのような存在です。
自分の性格を知ることは、自分を縛るためではなく、もっと楽に生きるためのヒントになるはずです。
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