◆リィナ①◆よい子わるい子

リィナとよるのないまち

 まず、リィナは、町の広場へと向かいました。いつもたくさんの人がいる広場なら、夜がどこにあるか、知っている人がいるかもしれない。そう思ったからです。

 広場までの道のりをリィナは、夜やお月さま、お星さまのことを考えながら、ルンルンランランと、歩いて行きました。

 広場につくと、そこにはやっぱりたくさんの人が。でも、よくよく見てみると、いつもとふんいきが違います。

「どうしたんだろう?」

 フシギに思ったリィナは、近くにいたおじさんに声をかけました。

「ねぇねぇ、おじさま?」
「おや? おじょうちゃん、どうしたんだい?」
「今日はいつもより、たくさんの人がいる気がするの。みんながいるあの真ん中には、一体何があるの?」
「あぁ、あそこにはね。『ガルーダ』がいるんだよ」
「ガルーダ? それはなぁに?」
「ガルーダはね、こわくてわるい、大きな鳥さ」

 とても大きくて、するどいツメとクチバシを持つガルーダ。それは、人間たちをおそう、と、みんなからきらわれているそうです。おじさんが、教えてくれました。

「わたし、見にいってみる!」
「おじょうちゃん! キケンだよ! 待ちな!」

 おじさんの言うことも聞かず、ガルーダのいる方へと、リィナは走り出しました。

 人のなみをかき分けて、たどりついたリィナの目にうつったのは、大きな大きな、見たこともない鳥でした。
 リィナよりずっと大きくて、お母さんがたてに2人分かなぁ。そんな風に考えました。
 ガルーダは、羽を休めるようにうずくまっています。その目にはなみだをうかべながら、人間たちをじゅんばんににらみつけていました。

 にらみつけられた人間たちは、その場から動くことができません。だって、いつおそわれるかわからないから。

「わぁ……大きい」

 リィナの声に気づいたガルーダは、こんどはリィナをにらみつけました。

「ガルーダさん? どうしたの? なみだを流して、どこかいたいの?」
「近づいちゃあダメだよ!」
「食われるぞ!」
「どうして? だれか食べられちゃったの? ケガしちゃったの?」
「いや……そうじゃあないが……」
「ならどうして止めるの? ガルーダさんは動かないのに」
「そいつはまだ子どもだ。どこがで親が見ているかもしれない」

 それでもこわがることなく、リィナはガルーダへと近づいて行きました。そして、動かないガルーダの足元まで行き、しゃがみこむと、なにかをさがしはじめました。

 小さな手でガルーダの体をさわります。

「あぁ、これがいたかったのね。待って、今取ってあげる」

 そう言って、ガルーダの足にささる、自分の手の親ゆびくらいのトゲを引き抜きました。

「キィィ──!」

 一鳴きしたガルーダのまわりから、人間たちがはなれて行きます。

「こんなに大きなトゲがささっていたのに、さわがずにじっとしてたの、おりこうさんね」

 リィナは、リュックからバンソウコウを取り出すと、キズぐちの上からやさしくはりました。

「もうだいじょうぶ」

 ニッコリ笑ったリィナにつられ、ガルーダも目をとしてほほえみました。そして、顔をよせて、リィナにスリスリとすりよります。

「あはは、くすぐったい」

 ガルーダの体は大きくて、とてもリィナのうでは回りませんが、体をよせてみると、とてもあたたかくて、じんわりとやさしい気持ちになりました。

 そこへ、さっきお話をした、おじさんがやってきました。

「おい、いいかげんはなれなさい」
「どうして?」
「ガルーダはキケンだ」
「この子が何かひどいことをしたの?」
「ちがうが、そう決まっている」
「どうして決まっているの?」
「大きいし、なによりこいつらはきょうぼうだ」
「だれかがおそわれたの?」
「……いや、でもほかのやつらが」
「ならどうして決めつけるの? この子はきっと、いたくてたすけてほしかったから、だからみんなを見ていたんじゃないの?」
「……でも、ガルーダはわるいと聞くし、それににらむなんて……」
「いたいのをガマンして、でもたすけてもらえなくて、そんな言い方ひどい!」

 リィナはうでを組んで、おじさんをにらみつけました。ぷくぅとほほをふくらませ、プンプンとおこっています。

「ほかがそうなら、みんな同じなの? おじさまはリィナより大きいけど、リィナをいじめるの?」
「そ、そういうわけでは」
「じゃあガルーダさんはいい子かもしれないじゃない。ね、ガルーダさん」

 それに答えるかのように、「キィ」と一鳴きすると、ガルーダはリィナの後ろにつき、見まもるように身がまえました。

「リィナは夜をさがしに行くの。おじさん、夜ってどこにあるか知ってる?」
「よ、夜? 夜はかみさまが作るんだろう。神さまに会いに行けばわかるんじゃあないのか?」
「かみさまはどこにいるの?」
「そうだな、あの七色のにじのむこう、半分にじがくもにかくれているだろう? その先の空のずっとずっと上にでも、すんでるんじゃないかねぇ」
「じゃあ、リィナお空の上に行く!」
「おいおい、じょうだんだぞ」

 にじのむこうなら、にじをわたればいいのかなぁ。なんて考えながら、リィナは町の外にむかって歩きます。おじさんの声は、聞こえていません。

 ザッザッと、その後ろをガルーダがついてきます。

「ガルーダさんも、いっしょに行く?」

 ウンウンとたてに首をふると、リィナのよこによりそいました。

「よろしくね、ガルーダさん」

リィナはガルーダといっしょに、にじを目ざして歩きはじめました。

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