くもくんのお母さんは、どんどんとにじにそって空の上の方へとんで行きます。すけていたにじも、上の方はこくハッキリとした色に。
「にじってかたいのね」
リィナは手をのばして、にじにさわってみました。七色のにじはとてもキレイで、サラサラと気持ちの良い手ざわりです。
コンコン、とノックをしてみると、コンコン、と、かたい音がかえって来ます。
リィナは、くもくんのお母さんの上で、たくさんのお話をしました。
自分のすむ町には、夜がないこと。お母さんに、また夜を見せてあげたいこと。お月さまとお星さまを見てみたいこと。
そして、大人が『わるい』と言う、このガルーダは『良い子』であること。
「どうして大人は、なんでも『決めつけ』ちゃうのかしら」
「そうね。むずかしいけど、リィナちゃんも、大人になったらきっと分かるわ」
くもくんのお母さんは、こまったたように笑いながら、リィナに言いました。まだまだ、リィナには分からないことがたくさんあります。
どうして、くもくんのお母さんが、こまっているのかもわかりません。
「リィナちゃん! もうすぐ、かみさまのおうちにつくよ!」
「わぁ! ほんとう? すごく楽しみ!」
リィナはワクワク。ガルーダもワクワク。そんなリィナとガルーダを見て、くもくんと、くもくんのお母さんもワクワク。
「ホラホラ、あの大きいの! あれがかみさまのお家だよ! ちょうどにじの真ん中。くもにかくれる所。あれだよ」
くもくんがまっすぐみる先には、大きな大きなおしろが。それはくもで出来ているのか、なんとなく、ユラユラとゆらいでいるように見えました。
ゆっくりとおしろに近づいて、ふんわりと地めんにおり立ちます。くもで出来た地めんは、やさしくリィナの足をうけ止めてくれました。ポフポフとふみしめると、ふしぎな感じがしました。
「ここでおわかれかしら。それじゃあね、リィナちゃん」
「ありがとう、くもくんのお母さん!」
そのよこで、くもくんはモジモジ。何か言いたそうです。リィナとガルーダを見ては、目をそらします。そして、また見つめてのくりかえし。
「どうしたの? くもくん」
「あのね、えっとね……」
くもくんは、がんばって言いました。
「リィナちゃんは、ガルーダとお友だちなんてすごいね。人間はみんなこわがるのに」
「ガルーダさんはこくないよ? とってもやさしいの!」
「そっか……。ねぇ、ボクもお友だちに、リィナちゃんとガルーダさんとお友だちになれるかなぁ?」
「なれるよ! ……あれ? もう、お友だちじゃあないの?」
リィナは首をかしげました。まいごのくもくんを見つけて、ガルーダさんとくもくんのお母さんをさがして。もう、とっくに友だちだと思っていたからです。
「あっ……! そっか。いっしょにお母さんをさがしてくれて、もうお友だちね!」
「そうだよ! もうお友だちだよ!」
くもくんは、すがたのちがう自分が、お友だちになれるのか、と、心ぱいをしていました。でも、リィナとガルーダにとって、そんな心ぱいはいらないものだったのです。
すがたがちがっていたって、同じしゅるいじゃあなくたって、友だちになるのはカンタンなのだから。
「夜がま町に来たら、くもくんもあそびに来てね! 待ってるよ!」
「うん! かならず行くよ!」
「ぜったいだよ! それじゃあ、さようなら!」
「さようなら、リィナちゃん!」
リィナは、くもくんとくもくんのお母さんと、今どこそおわかれをします。
ちょっぴりくるしくて、むねがキュッとなりました。けれど、また会えることを考えたら、じんわりとあたたかく、やさしい気持ちになりました。
何どもふりかえるくもくんに、たくさん手をふって見えなくなったころ。リィナとガルーダはくるりとむきをかえて、かみさまのおしろをノックしました。
「かみさま! こんにちは!」
リィナは元気よくあいさつをします。しばらく待っていると、中からガチャリ、とドアをあける音がしました。
「だれじゃね? めずらしいのう、こんな所におきゃくさんなんて……」
「はじめまして、かみさま! リィナはリィナ。夜をさがして、かみさまのところに来たの!」
「夜……? あぁ、あぁ! あの町にすむムスメさんかのう。入りなさい」
真っ白なヒゲを、手のひらでなでながら、リィナたちをむかえてくれたのは、ニコニコと笑うおじいちゃんでした。せはちいちゃくて、ぽよんぽよんと、まるまるとした体です。
「オレンジジュースでいいかのう。ほら、クッキーも食べなさい」
リィナとガルーダをおうちに入れ、ジュースとおかしをふるまいました。おいしいジュースとおかしに、リィナもガルーダもニッコリ。
「それで、夜をさがしに来たんじゃったな。すまないのう。リィナちゃんの町に夜をわたす前に、ケガをしてしまって。それでなぁ、その……」
かみさまは、なんとなく言いにくそうです。
「そのままリィナちゃんのまちに、夜をわたすのを、すっかりわすれておったんじゃ」
「えー!? かみさまわすれていたの!?」
まさか夜をわすれていたなんて、リィナもビックリ。わっはっはとわらうかみさまを見ていると、なんだかリィナもおもしろくなって、思わずわらってしまいました。
「長い間、夜がなくてふべんじゃったろう。今から、夜をわたしに行くぞい!」
「やったぁ! 夜に会えるのね!」
「夜にはもとがあってのう。それがこれ、こっちじゃ」
かみさまは手まねきをして、リィナとガルーダを別べつのおへやにあんないしました。
そこにあったのは、大きなガラスのビン。中には、黒や赤、むらさきやふかい青、オレンジが顔を見せる、ふしぎな色のえき体でした。
「これは夜の絵のぐをとかした、夜のもと、じゃよ。これを空の上からふりまくんじゃ」
ずっと見ていてもあきなくて、なんだかすいこまれそうな、そんな夜のもと。
「リィナちゃんとガルーダも、手つだってくれるかね?」
「もちろん!」
「キィィイ!」
元気よくへんじをします。
こうして二人は、かみさまのお手つだいをすることになりました。