「もう好きじゃなかったんだよね?
ごめんね、付き合わせちゃって。
私が謝るから、縋るから、別れられなかったんだよね?
ごめんね、気付かなくて。
短い期間だったけど、一緒にいられて幸せでした。
ずっと好きな人だったから。
傷付けてごめんね。
嫌な思いさせてごめんね。
きっともっと、謝ること沢山あると思う。
全部ごめんね。
私はずっと一緒にいたいけど。
別れたくないから、怖くて言えなかった。
でももう、態度も言葉も、前とは違うんだ。
有り難う、楽しかった。
幸せだった。
大好き。
サヨナラ。」
封筒の中の合鍵。俺の家のものだ。
俺は咲紀のことを愛している。
これは別れ話なのだろうか。額面通りに受け取れば、「私は貴方を愛しているが、貴方は私を愛していない」そういうことだろう。
「だから別れる」と。
確かにきついことを言った。冷たい態度もとったと思う。嫌いだからじゃない、寧ろその逆で好き過ぎる故の嫉妬と不安。
ただそれだけだ。俺の愛情は、咲紀に伝わっていなかったのか。
態度に出すのは苦手だ。恥ずかしいことも一つの理由だが、言わなくても分かっていると心の中で感じていた。
違う、過信していた。
対して咲紀は、いつも愛情表現を怠らなかった。言葉、態度、表情、仕草、全てから伝わってくる。愛されている感覚は心地良い。
何より安心出来る。
……咲紀は、安心など出来ていなかったのか。
初めは俺だって、言葉にし、態度に出していたのに。いつからか、「言わなくても、特別なことをしなくても分かるはず」そう思うようになったんだ。段々と冷たくなったと感じたのだろう。
手に入ると安心してしまった。自分のものという驕り。冷たくあしらった日、嫉妬から責めた日、キツく罵った日。泣きそうな顔に、消え入りそうな声。
咲紀は、独り泣いていたのだろうか。
「泣いてる顔は見たくない」
何度も言ったのに、泣かせたのは俺だ。謝る咲紀を許しても、フォローは一度もしていない。自分のことで精一杯だった、いや、自分のことしか考えていなかったんだ。
それでも俺を、俺なんかを愛してくれたのに。
何を言っても大丈夫だと思った。何も言わなくても大丈夫だと思った。
違ったんだ。独りよがりの八つ当たりなど、ただ傷付けるだけなのに。言葉にしなきゃ、態度に出さなきゃ何も分からないのに。
まだ間に合うのか。俺は咲紀を愛している。携帯を手に取り、家を出る。
「俺だって咲紀を、愛しているんだ」
そう、心から伝えるために。