掌編:ラヴァーズ・ライヴ

スポンサーリンク

 『今から空いてる? どっか行かね?』

 そんなメールが届いたのは、すっかり日も落ちた午後九時。相手はバイト先の同期の司。元々仲も良く、こんな時間に誘われることもよくある。
 そしていつもの返事。

『うん、大丈夫』

 司はいつも唐突に誘う。いきなり誘うことばかりで、予定を立てて出かけることはまずない。当然断る回数も増える訳だが、あまり気にはしていないらしい。
 自分の誕生日ですら、こんな調子だ。

 バイト先で仲良くなったが、たまたま家も近くだった。上がりの時間が近い時は、いつも車で家まで送ってくれる。
 たまにそのままご飯を食べに行ったり、カラオケに行ってオールなんていう日もある。お互い電車で通勤した日には、漫画喫茶でひたすら漫画を読むこともした。当然、二人で飲みに行ったり、休みの日にカフェへ行くことだってザラだ。

 たまに旅行へ行けば、お土産を貰う。

『他の子には内緒ね』

 何となく、特別扱いされている気がした。二人だけの秘密。

 が、勿論、別に付き合っている訳ではない。飽くまでも『友達』である。

 はっきり言って、私は司のことが好きだ。

 一緒にいて居心地が良い。その心地良さを失いたくなくて、告白することも出来ないでいる。

 司は優しい。

『着いたから降りてきて』

 そのメールに促され、私は外に出る。

 寒い。吐く息は白く、思わず手を擦る。マンションの前まで出ると、車の前に司が立っていた。

「お待たせ」
「おう。マジ今日寒いよな」

ポケットに手を入れて、司が言う。

「ホントだよね」
「行こっか、外にいたら凍えるわ」

 私は助手席に乗り込む。

「何処行くの?」
「うーん。ま、適当かな」

 そう言って、車を発進させた。

 司はよく喋る。趣味の話やバイトの話、学校の話。
いつも時間が経つのを忘れるくらい、お互い喋り倒した。

 あっという間に数時間が過ぎる。今日もまた同じ。喋っている間に、二時間が経ったのだ。
 いつもこう。早く終わって欲しい時ほど、時間の流れはとてもゆっくりに感じ、終わって欲しくない時は、すぐに時間が来てしまう。

 もうすぐ、日付が変わる。

「うわっ、すげ! ちょ、窓の外見てみ!!」

 司の言葉に窓の外を見る。

 そこには、静まり返った海が広がっていた。人の姿はなく、在るのは海と砂浜のみ。

「出てみる?」

 司がドアを開け外に出る。
 ビュン──と、風が車の中に入った。

「うわっ、寒! あっ、司待って!」

 慌てて外に出る。

 暗闇の中の海。聞こえるのは波と風の音だけ。美しくもあり怖くもあるその光景を、ただ黙って見つめていた。

「なぁ、俺さ……」
「ん? 何?」
「俺、好きなんだよね。お前のこと」
「うん。……え!?」

 あまりにも唐突な告白に、驚きを隠せないでいた。

「ずっと好きだった。付き合って欲しい」

 目のあった司の顔は、初めて見るぐらいの真面目なものだった。

「……それ、ホント……?」
「そんなことで嘘吐かないよ。言おうか今まで悩んでたんだから。……ほら、今みたいに、遊びに行ったり出来なくなったら嫌だったから」

 まさか。司も同じ気持ちだったなんて。

「でも、やっぱり言わなきゃって思った。後悔したくないし。あっ、答えは今じゃなくても……」

 答え? そんな物決まっている。私の顔を見れば、司だって返事はわかっているだろうに。

「私も、私も司が好き! 嬉しいよ! 彼女になって良いの?」
「マジ!? やった! 当たり前だろ!」

 司が笑う。私も最高の笑顔を見せた。

 友達として来た道を、恋人として帰る。

 私は、幸せ、だ。