すっかり寒くなった秋の日。制服にカーディガンの私は、ポケットに手を突っ込みながら歩いていた。
部活も終わり、まだちらほらと人の残る校舎を後にする。夕日は沈み、辺りは暗くなっていた。
家までの道のりを、音楽を聴きながら歩む。危ないかもしれないが、私はこの時間が好きだ。
「さむっ」
思わず声が漏れる。息はまだ白くはならなかった。
ポケットから両手をだし、擦り合わせる。暖かい。コートを着たり、タイツを穿かなかったことを後悔する。
だが、仕方ない。気を取り直し、またポケットに手を入れた。
すると。
トントン──
誰かに肩を叩かれた。
「?」
イヤホンを外し、振り返る。
「お疲れ」
「あっ、お疲れさま」
そこには裕樹がいた。隣の家に住む幼なじみで、気が付けば幼稚園から高校まで同じだ。
「一緒に帰んね?」
「うん、良いよ」
家までの道のりを、二人で歩く。そう言えば、こんな風に二人並んで帰るのは、いつ以来だろうか。昔はよく遊んだが、気付いたら会うことも少なくなっていた。
私がまだ小さい頃、何気に裕樹のことが好きだった。意地悪するけど優しくて、近所のガキ大将から守ってくれたから。
人見知りの酷かった私は、あまり友達もおらず、毎日引きこもってばかり。そんな中、裕樹だけが、私の遊び相手だった。懐かしい思い出。
今ではすっかり引きこもりも解消し、賑やかな毎日を送っている。
家までは歩いて十五分ほど。
昨日見たテレビの話。授業で当てられた時のこと。部活で行った合宿。
話したいことは沢山あるが、時間が足りない。
どうしよう。
風が吹く。またポケットから手を出し、息を吹きかけた。
「一気に寒くなったなぁ」
「そうだよね。あーあ、コート着れば良かった」
裕樹は、鞄をゴソゴソとし始めた。
「これ」
手袋を差し出す。
「使いなよ」
「えっ、でも、裕樹のじゃん」
「良いんだよ、別に」
「でも……」
「じゃあ、こうしよ」
裕樹は片方をはめ、もう片方を差し出した。
「半分こ。な?片方ポケット入れれば良いし」
「うーん。じゃあ……」
右手にはめる。私には少し大きい。
「有り難う。暖かいよ」
「やっぱり、手袋は良いなぁ」
ニコニコしながら手袋を見る裕樹に、思わず笑みがこぼれる。
「なぁ、明日も帰ろうや」
「えっ、あ、うん」
思いもよらない誘いに、ドキッとする。
「絶対だぞ?」
「うん。わかってるよ」
「あっ、やっぱりこれ!」
はめていた手袋を外し、私の左手にはめる。
「明日返してくれれば良いよ。そうしたら、絶対会うことになるでしょ? ほら。だからはめてって!」
そう言った裕樹の顔は、少し赤い気がした。
そんな表情に、つられて顔が赤くなる。
あぁ、そうか。
私、裕樹のことが──
「じゃあ、また明日」
「うん、また明日。手袋、有り難うね」
「おう」
裕樹と別れる。
早く明日になれ。
そう願う。
私は、恋をしていた。