掌編:レンアイイゾン

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 誰でも良い訳じゃない。そう思っていた。いや、今でもそう思っている。

 この一年で、どれだけの女性を好きになったのだろうか。十八年間生きてきて、これほどの短期間で、好きになったり告白したり、したことはなかったと思う。

 俺は、カフェで働いているが、やはり店員は女性が多い。ホールの制服は可愛らしいデザインで、客の評判もなかなかだ。
 それもまた、好きになる要因なのだろうか。

 俺は元々、客としてこのカフェに通っていたが、通い始めて一年、バイトの美和と付き合い始めた。美和は中学が一緒で、たまたまこのカフェで再会した。

 劇的である。

 その内、少しでも長く一緒にいたくて、俺もここでバイトを始めた。

 暫くして、社員の千夏さんを好きになった。

 千夏さんは、俺より十歳上だった。小柄で愛嬌のある顔立ち、いつも優しく接してくれている。
 どうやら、他の従業員、特に女性からは良く思われていないらしい、が。俺には優しい。
 気のせいか、スキンシップも多く、ドキドキする。
肩をポンと叩いたり、顔を近付けてきたり。

 今年の年始め、職場の皆で初詣に行き、そこで手を繋いだ。他の人達は見ていただろうのに、何も言わなかった。公認という奴だろうか。

 手を繋ぐなんて、好意を持った人間にしかしない。そう考えた。気持ちは止められなかったから、告白した。

「ごめん。優也くんのこと、そんな風に考えられない。弟みたいな感じなんだよね」

 驚いた。

 てっきり、千夏さんも、俺のことが好きだと思っていたのに。弟、だなんて。異性としてみられていない、その事実が、酷くショックだった。

 そして、千夏さんに告白したことが、美和にバレてしまった。告白しただけで、付き合った訳ではない。俺は振られたのである。

 なのに、美和は俺を強く責めた。苛立った俺は、美和と別れることにした。美和は仕事を辞めたが、俺はそのまま続ける道を選ぶ。

 次に、バイトの先輩、綾奈さんが俺の心を揺らした。綾奈さんは、俺の五つ上。年相応には見えなく、高校生ぐらいに見える。緩く巻いた髪に、ピンクのグロスがよく似合う。

 綾奈さんもまた、優しかった。彼女と別れた俺を、慰めてくれた。気を遣って、映画やカラオケに、誘い出してくれた。メールも電話もした。

 これならきっと、大丈夫だろう。

「ごめんね、今はまだ付き合えない。もう少し、考えさせてくれないかな?」

 即答じゃないのか。期待と違う答えに、ガッカリした。が、振られたわけではない。

 俺は、綾奈さんが付き合うと決めるまで、待つことにした。綾奈さんと付き合えるなら、幾らでも待てる気がする。

 二週間が経ち、新しくバイトが増えた。女の子が二人、採用されたのである。芽依と英里子、友達同士で応募したらしい。
 芽依は妹タイプ、英里子はボーイッシュなタイプで、見た目も雰囲気も違っていた。

 仕事を教えるうちに、英里子と仲良くなった。気さくで、何より話していて面白い。学校の話、バイトの話、ファッションの話。好きな芸能人や、何処のラーメン屋が美味しいか、そんな話もした。

 俺は、思い切って聞いてみる。

「英里子は彼氏居るの?」
「私? 彼氏は暫く居ませんよー」
「そうなんだ。欲しいって思う?」
「今はいらないですね~。友達と遊ぶのが楽しいし」
「ふーん。そっか」

 良かった。危うく振られてしまうところだった。気付いたら俺は、英里子に惹かれていた。

 その日もまた、いつもと同じように英里子とのシフトにつく。
 しかし、英里子の様子がおかしい。風邪らしく、早退してしまった。代わりに、芽依がシフトに入る。

「英里子、大丈夫かな」
「熱はないみたいです。でもちょっと、辛そうでしたね」
「だよなぁ。よし、後で連絡してみよう。大変そうだったら、明日以降のシフト、代わってやらないとな」
「優也さんって、優しいんですね」

 ニコリと笑う芽依は、とても可愛かった。

 ある日、綾奈さんに呼び止められる。

「優也、今日仕事上がったら、一緒に帰らない?」
「あっ、はい。大丈夫ですよ」
「良かった。じゃあ、後でね」

 何だろうか。少しドキドキしながら、仕事上がりを待った。

 足並みを揃えて、綾奈さんと歩く。
 他愛ない話をしていたが、少しの沈黙の後、綾奈さんが口を開いた。

「あのさ、考えたんだけど、私、優也とお付き合いしたいな……って」
「マジ……ですか?」
「うん」

 そういえば、告白してから一ヶ月半ほど経っている。

「あの、こないだまで、綾奈さんのこと、好きだったんですけど……」

 言い辛いが仕方ない。

「俺、今芽依が好きなんです」

 綾奈さんは目を丸くする。

「だから、綾奈さんとは付き合えません」
「……そか」

 なんだか寂しそうだったが、綾奈さんとはそこで別れた。

 ──あれから五年が経ち、俺はまだ独り身だ。

 その後、芽依とは付き合ったが、三ヶ月ほどで別れてしまった。

 今日まで好きな人は何人、いや、きっと何十人。現れるものの、付き合うには至らない。
 男として見れないだとか、色んな人に告白してるだとか、私のことほんとに好きじゃないだとか。そんな風に言われるだけで、何故か実らない。

「そうだ、もしかしたら……」

 思いたった俺は、すぐにメールを打つ。良かった、まだアドレスは変わっていないようだった。

『綾奈さん、お元気ですか? 優也です。良かったら今度、食事にでも行きませんか』

「付き合いたい」

 そう言った綾奈さんなら、きっと巧くいくに違いない。

 俺はワクワクしながら返信を待った。
 暫くして携帯が鳴る。綾奈さんだ。

「なになに──」

『久し振りだね。元気だよ。食事かぁ。二人はちょっとダメかな。旦那いるから、異性と二人はね』

「……旦那、だって?」

 知らない間に結婚していた。俺と付き合いたいと言ったのに。詳しく聞くと、二年前に結婚し、今は子どもまで居るらしい。

「何だよ……付き合いたいって言った癖に」

 そのまま、思ったことを書き殴り、送信した。

 返信が来る。

『それ、五年も前の話だよね? まさか今までずっと付き合いたいと思ってるとでも? 大体、あの時優也は私を振ったじゃない』

 言葉が胸に刺さる。

『忘れてないよ。一ヶ月半の間に、アナタは好きな人が出来たでしょう? 私の五年なんて、可愛いものだわ』

 文章は続く。

『あの時振ってくれて有り難う。お陰で素敵な人と巡り会えたわ。そうそう。アナタあれから、あまり良い噂、聞かないわよ。……じゃあ、頑張って』

 力が抜けた。なんだ、俺が悪いとでも言うのか。好きな人が出来たのだから、仕方のないだけだというのに。

 果たして俺は、結婚出来るのだろうか。そんなことを、ぼんやり考えていた。