小さな花を見付けた。名前も知らない、白くて小さな花。
『一生懸命に生きてるんです。他の花に守られながら』
と。そう話してくれた彼は、同じクラスの男の子。
どんなに小さくても、こんなに立派な花を咲かせている。
沢山の人に、見てもらいたくて。
「山並さん。今から皆で一緒にカフェ行かない?」
「……御免なさい。今日は図書館に行くの」
「そっかぁ。じゃ、また今度ね!」
「えぇ」
付き合いが悪いことは自分でも分かっている。上辺だけの馴れ合いが、嫌なだけ。そう思っているのだけれど。
向こうでもまた、誘いを断っている男の子が居た。
「なぁ、杉下ー。たまには遊びに行こうぜ」
「す……すいません。今日は委員会があるもので」
「一日ぐらいさぁ、サボっちゃっても良いんじゃいの?」
「でも、当番が決まっていて。その、ちゃんと様子を見ないと……」
「そか、また今度な」
「はい。また、誘って下さい」
機嫌悪そうに離れていく男子。
少し申し訳なさそうに見ているのは──
「杉下君」
「あ、山並さん。見られ、ちゃいましたか?」
「嫌なら、そう言えば良いのに」
少し──意地悪な問い掛けだったかもしれない。
「いえ。嫌な訳じゃ無いんです。ただ……」
「ただ?」
「僕が行って、皆の迷惑にならないか、と。あっ、でも当番はホントにあるんですよ!」
相変わらず控え目、というか、卑屈、というか。
「有沢さんは、一緒に行ったりしないんですか? 誘われていましたよね?」
「私も、用事があるから」
彼に言わせれば、こっちの方が『嫌ならそう言えば良いのに』だろう。嫌だとは言えない。それは、本心じゃないから。
「ねぇ。委員会、見ていっても良いかしら……?」
「はい! 勿論! あ、でも用事は良いんですか? 済ませなくて。」
「あんなの……断る口実だから」
微かな笑みを浮かべながら『そうですか』と、杉下君は言う。
帰る支度を済ませ、私達は花壇に向かった。
私達の学校は、校内環境の美化に力を入れている。清掃は当然のこと、外観を良くする為にも、沢山の花壇が配置されていた。
「結構、咲いているのね」
「そうですね。季節的にも良い時期だと思います」
「大変なんじゃないかしら? こんなに、咲かせるの」
「僕達が愛情を注げば、それに答えてくれるんです」
「そう……」
「だから、咲いた時の喜びに比べたら、大した苦労じゃないですよ」
生き生きとした返答。
『本当に花が好きなんだ』と再度感じた。
「あら? この花、種類が違うのね」
「きっと何処かから種が飛んできたんだと思います」
「小さい……」
「ホントですね」
「独りだけ仲間外れで、淋しくないのかしら」
「山並さん?」
華やかな他の花。色は違えど同じ種類の花の中に一つ、独りだけ異なるモノ。
見ていると何だか切なくて──。
「確かに種類は違いますけど、同じ花は花で。仲間ですよ」
「……」
「一生懸命に生きてるんです。他の花に守られながら」
「守られながら……?」
「周りの花は大きいでしょう? 風が吹いても、折れないように」
「……」
「それでもちゃんと太陽は当たるし、養分も水もとれるんです」
「──ちゃっかりしているのね」
「はは……そうかもしれないです」
にっこり笑う杉下君につられて、自分の頬も緩んでしまう。
「皆一緒に生きているんですよ」
「そっか、そう、そうよね」
この花の様に。私も皆と仲良く出来るだろうか。一緒に生きていけるだろうか。
「山並さん。本当は、行きたかったんじゃないですか?」
「──え?」
「あっ、御免なさい。余計なこと……」
「良いの。本当のことだから」
「どうして、行かないんですか? 皆さんと」
「……私が行って、迷惑にならないかと思って」
気付いたら、同じような答えをしていた。
「そんなことはないですよ! 一緒にいたいから誘うんです」
そんな一言が、嬉しかった。少しの勇気を貰えた気がして。
「──有り難う。今度は一緒に行くわ」
「はい!」
「杉下君、もね」
「分かってますよ」
この花達のみたいに──助け合いながら──生きていく。素直に、遊んで笑って。悪くないかもしれない。
「山並さん! 此処教えてぇ!」
「良いわよ。そのかわり……」
「な、なぁに?」
「今日の帰り、この間誘ってくれたカフェに、連れてってくれない?」
「へっ? そんなので良いの?」
「えぇ。たまには一緒に行きましょう?」
自分の気持ちを、精一杯の笑顔に託して。
「よしっ! じゃあ決定ね。昨日からフルーツフェアやってるんだ!」
彼女が笑顔で答えてくれる。
有り難う。
あの強い花と、優しい貴方に。
感謝を込めて。