掌編:嘘吐きアリアと泣き虫サリア

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 『昔々、とある王国に、二人の王女様がおりました。姉の名前をアリア、妹の名前をサリアといい、とても仲が良い姉妹でした。
 しかし、仲が良い、そう思っていたのは両親だけで、実際の二人はというと……

「お姉様、それは私のドレスじゃないかしら?」
「あらサリア、このドレス、とても可愛いわよね。貴女より、私の方が似合うわ」
「なっ……!」

 勝手にサリアの物を持ち去り、返すことはありません。

 また、ある時は、

「プルメリア、プルメリア! 何処にいるの!?」
「ワンワン!」
「プルメリア! 何処行ってたのよ! ……あれ? この首輪……」
「私に懐いているのよ。だから、この子は私が飼うわ。メルフィ、行きましょう」

 大事な友人でさえも、気に入れば自分のものと、してしまいます。

 サリアの居ぬ場所では、

「お父様、お母様、サリアは、とても我が儘で、いつも私を困らせるの。私を悪く言い、時には暴力を振るうわ。あぁ、なんて怖いのでしょう」

 嘘を吐くことさえ、厭うことはありません。

「あぁ、アリア。きっとサリアは、お前が羨ましいのだよ。お前は誰よりも優秀で、誰よりも美しいのだから」
「気にしてはいけませんよ。劣った人間の言うことなど、耳にしなければ良いのです。ただ向こうが気にしているだけなのですから」
「些細な喧嘩は、仲の良い証拠。これからも、仲良くしなさい」

 王様と女王様に、有りっ丈の愛情を注がれて育った姉のアリアは、『自分の存在が全て』という世界に住んでいました。

 全てが私の物。全てが私の思い通り。

 何よりも、誰よりも、私が、一番──。

 比べて妹のサリアは、両親に見向きもされず、姉と揃えば比較され、蔑まれる存在でした。
 ただ、周りに優しく、謙虚な心を持ち、分け隔て無い愛情を、全てのものに注いでいました。

 ──姉と両親を除いて。

 『勉強に』と、姉妹はよく街へ出掛けていました。

 姉は両親には愛されていましたが、その性格から、周りの人間からは疎まれていました。逆に妹は、周りの人間から愛されていました。自分の性格が元にも関わらず、誰からも愛される妹を、姉は嫌っていました。

「どうして私よりも、妹が好かれているのかしら? おかしな話だわ」

 自分よりも劣っている筈の妹が、自分よりも好かれている訳がない、と。

 ある日姉のアリアは、自分に周囲の目を惹くべく、色々なことを囁き始めました。

「サリアは、私のドレスを勝手に持って行き、更には汚して破り、謝りもしないのよ」

「私の大事な犬を、いつの間にかさらっていって、知らない間に自分の友達にしてしまうの」

「誰も知らない所で、穢い言葉を吐き、優しき人を陥れ、自分の思い通りに行かないと、怒り狂うのよ」

「我が儘で自分が一番のお姫様。自分以外の存在を、決して認めようとしないの」

 息を吐く様に嘘を重ねる──とはこのこと。
 ですがアリアは、嘘を吐いている気はなく、本当のことを話している気でいました。

“だって私は、アリアなのだから。誰よりも素晴らしいのよ。その素晴らしい私が言うことに、間違いはないわ。”

 幾らか日が経った後、サリアは、アリアが嘘を吹聴している場面に遭遇してしまいました。

 サリアは言います。

「お姉様。何故その様な嘘を吐くのですか! 私が一体、何をしたというのでしょう!」
「嘘など言っていないわ。だって私が言うことだもの。言い掛かりはよしてちょうだい」
「お姉様……」

 まるで話が通じません。
 両親にも話をしてみましたが、サリアの言葉に、耳を傾けることはありませんでした。

 気に病んだサリアは、毎日泣いて過ごしました。そして、フラフラと街を歩いては、お城に戻る日々。見かねた街の人達が、サリアに声を掛けます。

「サリア様、私達は、貴女を愛しています。アリア様が、例え何と言おうとも」
「嘘だと言うことは分かっています。だからどうか、そんな顔をなさらないで下さい」
「皆、信じていますから。また、笑って下さい。貴女の笑顔が、大好きなのです」

 優しい言葉に、サリアはまた泣きました。

 そんな中、街に一つの噂が流れます。

『隣の国の王子様が、花嫁を捜している。どうやら、この国の王女様、どちらかと結婚するつもりらしい』

 その噂は、アリアの耳にも入りました。

「王子様は、私と結婚したいに違いない」

そう考えたアリアは、今まで以上に我が儘の限りを尽くします。

 私は隣の国の王子様と、結婚するのだから、と。両親はそれを、温かく見守るだけです。アリアは、隣の国の王子様と、結婚するのだから、と。

 今日も街に行くサリアに、街人は問います。

「サリア様、貴女は王子様と、結婚したくないのかい?」

 サリアは答えます。

「したいわ。でも、無理な話なのよ。両親と、姉が居る限り」

 すると、一人の老婆がやってきました。

「サリア様、貴女は私に以前、パンを恵んで下さいましたね。他に、子どもの為に、医者も呼んで下さいました。感謝し切れません」

 そう言うと、そっとサリアの手を取り、小さな瓶を握らせました。

「……これは?」

「王子様は、今日の夜、お見えになると言うお話です。これを昼食にお混ぜなさい。そして貴女は、それを食べてはいけません」

 何か怖く思いましたが、サリアは瓶を受け取り、お城へ戻りました。

 サリアは厨房に向かい、料理を目の前にします。悩んでいると、コックが声を掛けました。

「サリア様、街の者から聞いております。私が入れましょう」
「でも」
「大丈夫。皆知っています。私達も、貴女に幸せになって欲しい。これは、その為に必要なのです」

 コックは薬を混ぜ、サリアを街へと向かわせました。

 薬の入った料理を食べた、王様、女王様、アリアは、あっという間に眠り始めました。コックは寝ていることを確認すると、王様に女王様、更に娘のアリアを連れ去り、城の地下にある牢屋へと、閉じこめてしまいました。

「アナタ達が居る限り、サリア様は幸せになれないのだよ」

 街人は、サリアに全てを話しました。

 渡した薬は、睡眠薬だったこと。眠った両親と姉を、城の牢屋に閉じこめたこと。街人とお城に仕える者で口裏を合わせ、三人は突然姿を消したことにすること。

 そして、サリアに、隣国の王子様と結婚し、幸せになって欲しいこと。

「幸せになっておくれ」

サリアは、今までにないほどの涙を流しました。』

▽▽▽

「パパ? このえほん、やぶれているの。つづきがよめないわ」
「え? その本もかい? おかしいなぁ。買った時には、確かにあったのに」
「そのほんも?? ほかにもないの?」
「うーん。どうやら、その続きが、落丁で無かったり、読めなくなったりしてることが、よくあるみたいなんだ」
「えーっ。なな、さいごまでよみたかったのに……」
「御免よ、ホラ、違う話を読もう」
「……はぁい」

 少女は違う絵本を手に取る。

『嘘吐きアリアと泣き虫サリア』

 父親は、絵本を手に取り、パラパラとめくっていった。

「おかしなこともあるもんだ。……しかし、この二人の姫様は、全く同じ容姿をしているんだな。これじゃあ、どっちがどっちかわかりゃしない」

 更にページをめくる。

「あぁ、ドレスと髪型で、区別するのか。実際に居たら、入れ替わっても分からないんだろうなぁ」

 パタンと絵本を閉じ、父親は娘の元へと向かった。

 イキヲスルヨウニ、ウソヲツク。

 アナタダケ、シアワセニハシナインダカラ。