掌編:泡沫

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 ぶくぶく。
 ぶくぶく。と、水の中に沈む。

 キラキラと輝く光。揺れる波間。
 透明、水色、青、群青、それは取り巻く水の色。
どんどんと遠ざかってゆく。

 ゆっくり。ゆっくり。

 手を伸ばしても、届くことはなく、ただただ、遠ざかるだけ。遠く、遠く。

 後ろには、ただ暗闇が広がり、大きく口を開けた『オワリ』が、ワタシを待っている。ひっそりと、待っている。

 それでもまだ、手を伸ばす。届くように、と。空を掴むように。

 キミがワタシを、この水の中に閉じこめた。わざとではなく、それは偶然であり、誰が見ても事故である。
 ──いや、事故とも思わない。

 何故ならワタシは、『ヒト』ではないから。

 キミはワタシを、助けようとした。居なくなったことに気付き、小さなその手を深く伸ばす。

 でも、届かない。
 更に手を伸ばそうとするのが、この水の中から見える。

 駄目だ、いけない、そんなに手を伸ばしたら、今度は君が落ちてしまうよ。

 声は出ない。気持ちだけ、せめて届けば良いと思った。

 大事にされていたこと、ワタシは知っている。ずっと一緒だったこと、ワタシは忘れない。

 本来ならば、こんな風に思うことさえ、ワタシには許されないのだろう。

 『イキモノ』では、ないのだから。

 ゆらゆら。ぶくぶく。ゆらゆら。ぶくぶく。

 沈む、沈む。

 伸ばした手は『希望』。
 キミへの思いは『夢』。
 今までの記憶が『宝物』。

 そして──その全てが『泡沫』。

 ありがとう、有り難う。

 ワタシはビー玉。キミのポケットからこぼれ落ちた、小さなビー玉。

 光を照らし、小さな音を立て、キミの目を、耳を、楽しませる。もうそれは、叶わない。

 周りは暗く、水の色も分からない。

 あぁ、此処が『オワリ』──か。

 背中に何かが触れる。同時に、カラダが動かなくなった。

 これが、最期の言葉。

 アリガトウ、サヨナラ。