第100話:【回想】その先の話 (あの時、一番好きだった君に。)

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 「千景って最近平日ばっかり?」
「うん。授業も殆ど無いしね。卒論と、興味のあった奴だけ。単位はほぼとった!」
「凄いじゃん。広絵平日多いから、千景いると助かる」
「私も広絵いると助かるよ」

 大学の授業も後期に入り、私はシフトを平日昼間にズラしていた。就職してから夜人間になっていては困る。それに、授業のない日は暇を持て余してしまうものだ。朝から夕方まで入ると、丁度いい。
 遊びたい時や予定のある日は、今まで通り夜に入っている。休日も、夕方までのシフトが増えた。

 このシフトだと、広絵とよく会う。広絵は掛け持ちで仕事をしているが、専らもう一つの方は夜に入っているらしい。道理で暫く会わない日が続いた筈だ。広絵は仕事も早く、一緒にやり易い。私としても、広絵と一緒に仕事するのは有り難い。

 ──その分、航河君と被ることが随分と減った。

 航河君は、平日の夜にシフトを入れていることが多い。休日は、主に日曜丸一日だ。
 以前は土日関係なく私はシフトを入れていたが、日曜は仕事をしたくなくなり、土曜の昼のみとなった。どうしても頼まれれば入ることもあるが、お断りすることも多く圧倒的に少ない。

 偶然だ。必然ではない。まぁ、なるべくしてなった、という点は、そうかもしれないが。

「千景ちゃん夜入ってよー」
「嫌でーす」
「なんでよぉ」
「次の日眠たくなるから。就職するギリギリまでバイトするつもりだから、体内時計狂ったままだと困るもん」
「店長激困りなんですけどー」
「他の人に入ってもらってくださーい」

 店長からは不評だった。そりゃそうだ。元々は平日夜と休日をメインにバイトを入れていたのだから。
 総合的な時間数は減らしていない。寧ろ、不定期で入っていた以前に比べると、多いかもしれない。その点をプラスと考えてはくれないものか。

「千景ちゃん、夜暇ならキッチン手伝ってよ」
「オミさんまたまたご冗談を」
「冗談じゃないって。人手足りないんだから」

 祐輔が主戦力だったが、実習が入りここの所バイトに入る日数が減っていた。
 ──私と祐輔はといえば、告白を断ってから暫くはギクシャクしたものの、まぁまぁ良好な部類に入ると思う。

「おはようございます」
「あ、航河おはよー」
「……おはよう」

 もうそんな時間か。航河君と私は、平日一緒になることがあっても、それはこの入れ替わりの時間が殆どだった。
 それでも、回数は少ない。例えば私が18時上がりだったとしたら、18時から出勤ということが大半だからだ。今日はたまたま、18時からだっただけ。

「……千景ちゃん、今日は何時?」
「私は18時だよ」
「……そっか」
「最近航河と千景、一緒に帰ってないよねー?」
「私はラストもう入ってないからね。早く帰りたい! って思うようになっちゃった」
「分かる! 広絵も早く帰りたいもん」
「だよね」

 時計の針は、17時55分を指していた。残り後5分。食器を下げ、テーブルを拭き、カトラリーの補充をする。キッチンに入り、冷蔵庫の中身をチェックし、洗い物の機械のスイッチを入れれば──上がりの時間だ。

 そう、もうラストも一緒にはならない。これは、正直わざとだ。きっと皆、私達が一緒に帰ることを想定している。極力、変わらない態度を目指しているが、流石に帰る時間分話をもたせるのが難しい。それが週に何回もとなれば、気が滅入ってしまう。

 ──まだ、好きなのだ。振られたとは言え、好きな気持ちは変わらない。しかし、それを前面に出してしまっては、航河君が困ってしまう。
 だからといって、おかしな態度を取ればかっこうの餌食だ。それを避ける為にも、私は物理的な距離をとった。

「お先に失礼します。お疲れ様でした!」

 航河君を置いてカフェを出る。

「……お疲れ様!」

 背後に航河君の声が聞こえる。私は振り向かないまま、店を後にした。