第98話:【現在】そわそわ② (あの時、一番好きだった君に。)

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 雨は止むことなく、その後夜になっても降り続けていた。ザァザァと降る雨は、時折大きな雷の音を轟かせ、暗闇を運ぶ。

「酷い雨だなぁ」
「ホントね。予報ってこんな雨だったっけ?」
「いや、確率低かったと思ったけどな」
「だよね。だから洗濯しちゃったし」
「朝早かったし、量も少なかったから、乾いてて良かったよね」
「うん。じゃなきゃまたやり直しだったもん」

 おやつ時に作ったシュークリームは、夜ご飯の後のデザートとなった。夏乃が満足そうに口いっぱいにシュークリームを頬張っている。口の周りに、生クリーム多めの、カスタードクリームを付けながら。

「夏乃、それ食べたら口ゆすいで歯を磨いて寝るよ?」
「はぁい。なつの、あしたのあさごはんこのシュークリームがいい!」
「朝からシュークリーム? 気持ち悪くならない?」
「ならない! だっておいしいもん! ママいっしょにつくってくれてありがとー!」

 ニコニコしている夏乃が可愛い。一緒に作った甲斐があったというものだ。

「俺ちょっとコンビニ行ってくる。炭酸欲しい。千景も何かいる?」
「んー、私も炭酸お願い。甘くない奴がいいな」
「りょーかい」

 ひろ君はこういう時めんどくさがらない。雨でも雪でも真夏日でも、関係なく外に出る。『千景の欲しいものは?』と聞かれることはあっても、『千景行ってきて』とお願いされることはまずない。私が行きたくて、他に用事がないか声を掛けることはあるが。

「雨強いから、気を付けてね」
「うん。俺まだお風呂入ってないし、濡れたら帰ってきて即入るわ」
「はいはい。コンビニ出る時連絡して。沸かしておくから」
「宜しく」

 今日は私と夏乃でお風呂に入った。水で書けるシートを貼り、最近は平仮名と片仮名の練習をしている。まだ反対を向いている文字もあるが、だいたい読める字を書くようになってきた。一丁前に、友達とお手紙交換なんかもしている。

 ドアが開き、ひろ君が外へ出る。そこそこの風と、大粒の雨。躊躇ったものの、雨の多さにひろ君は長靴を履き大き目の傘を手にとってコンビニへと向かった。

 ザァザァザァ──雨の音は好きだ。全てを流してくれる気がする。それでも、出来れば室内にいて聞いていたい。濡れるのは嫌だから。

 夏乃の歯を磨き、寝かし付ける。今日は珍しいことをしたからか、いつもなら『まだ起きていたい』と愚図るのに、あっという間に眠った。
 寝かしつけの前に、お風呂を沸かして正解だった。ひろ君から連絡が来てすぐ沸かし、寝室に戻ると夏乃もすぐに眠った。

「あぁ……疲れた」

 気疲れだ。何も難しいことや疲れることはしていない。ずっと考え事をしていたから、脳みそが悲鳴を上げている。

 ──ガチャ──

 ひろ君が帰ってきた。夏乃を寝かしつける旨を送っていたから、そろそろと寝室へと入ってくる。

「……寝た?」
「うん。さっき」
「冷蔵庫に入れとくね。柚子あったから、それにしたよ」
「ありがとう」

 暫くして、シャワーの音が聞こえた。ひろ君はお風呂に入ったようだ。

 ──もう時間も21時近い。綾ちゃんはどうなったのか。

 私から送るのも気が引ける。結果の報告を催促しているようで好ましくない。今日は綾ちゃんからはまだ一通もkiccaが届いておらず、特に間の連絡もない。
 送り辛いから送らないのではなく、一緒にいてまだ送れないことを祈っていた。

 夏乃の隣に寝転がり、目を閉じた。まだ眠たくはなかったし、寝る気もなかったがそんな気分だった。
 目を閉じて腕を伸ばして身体をほぐす。何かしていないと、気になって仕方がない。少し転がった後、ストレッチをしながら連絡を待つことにした。

「──もう寝る?」
「や、まだ」

 お風呂から出たひろ君に声をかけられた。

 ヴーヴヴ──ヴーヴヴ──

「あ、電話」
「俺いるからいいよ、向こうで出てきたら?」
「煩いとあれだから、外で出てくる。あ、会社の後輩ちゃんだから」
「分かった」

 メッセージではなく、電話がきた。綾ちゃんから。私は急いでスマフォを持ち、家の外に出た。

「──もしもし、千景です」

 その電話に出ながら。