第96話:【現在】カウントダウン (あの時、一番好きだった君に。)

スポンサーリンク

 宮本君からの連絡が来てから、もう一週間経った。あの後返事が来て、本人的には前には進みたいらしく、相手に期待せず、何か別のベクトルで気持ちを発散させることにしたらしい。
 すぐには難しいが、お陰で少し気持ちの整理がついた、と、お礼の言葉が書かれていた。
 役に立てたようで嬉しい。まだ先は長いかもしれないが、宮本君もまだ若い。拗れなければ、きちんと昇華して前に進んでいけるだろう。

「さて。次はこっちかな……」

 私は今、以前綾ちゃんが航河君と一緒に行ったカフェの前で、綾ちゃんと待ち合わせをしていた。

 会って相談、話したいことがあると言われたのだが、内容は大体想像がつく。

“……アレ以外ないよね”

「千景さん!」
「お、お疲れ綾ちゃん」
「すみません、途中で呼び止められてしまって」
「良いよ良いよ。入ろうか」

 小洒落たカフェは、初めて入る時はドキドキする。何となく場違いな気がして。

 私はアイスの抹茶オレ、綾ちゃんはホットチョコレートを注文した。頼んだものがテーブルに届くとほぼ同時に、私は食い気味に話し始めた。

「それで、何? 話って。改まった感じだったから、ビックリしちゃった」
「すみません、いきなり」
「良いのよ。気にしないで」
「ちゃんと言っておかなきゃいけない、というか、そういうお約束もしていましたし」
「じゃあ、もしかして」
「はい。来月の1週目の日曜日、一緒に水族館に行くことになりました」
「水族館か。良いね、楽しいよ、きっと」

 目をキラキラさせて、一生懸命綾ちゃんが喋っている。眩しい。本当に。

「そういえば、映画に行くんじゃなかったっけ?」
「良い時間が無くて……。でも、水族館に行った後に……その、告白して、それでOKだったら、レイトショーとかでももしかして大丈夫なんじゃないかな? なんて思ってしまって……。ふふっ」

 コイスルオトメだ。可愛い。なのに、素直にニコニコと返せない自分がいた。まるで娘に彼氏が出来た父親の気分である。背景を知っているだけに、言葉を選ばなければならない。その上で見守るのは中々のハイレベルな案件だ。

「……告白は、もう決まりなの?」

 念のために聞いてみる。

「はい。それはもう、決めました。千景さんもご存知ですよね、桐谷さんも私も、来月迄しかあのプロジェクトにいないこと」
「うん。見た」
「『ウダウダするなよ』っていう、神様からのアクションなのかなって。後悔しないように」
「強いなぁ、綾ちゃん」
「そうですか? ……あはは。恋する女子は強いかもしれないですね」

 まだ湯気の立つホットチョコレートをスプーンでかき混ぜながら、綾ちゃんはフゥフゥと冷まして飲んだ。

「あの、桐谷さんの服装とか、好みってわかりますか? 女性の」
「うーん。昔なら分からないこともないけど、今は分からないなぁ。変わっているかもしれないし」
「ちなみに、その昔の好みはどんなのでしょう?」
「そうねぇ……まぁ、フワフワした感じ? ゆるふわ? 系かしら」

 ……服装だけなら、当時の航河君は今綾ちゃんがしているような格好が好みだ。ふんわりとした、所謂女の子らしい、に形容されるような。

「当日は、少しでも可愛く見せたいなって。変ですかね?」
「いやいや。普通だと思うよ、そう考えるの。……折角2人で出かけるんだしね。『可愛い』とか『似合う』って思われたいよね。うん、分かる分かる」

 そうだ。私もそうだったんだもの。その気持ちは痛いほど分かる。
 服を選ぶことにドキドキワクワクして、いざ待ち合わせの場所について、またどんな反応をするのかドキドキワクワクする。

「怖いけど、凄く楽しみなんです」
「……そうだね。楽しみだね」

 私はちびちびと抹茶オレを飲みながら、綾ちゃんが嬉しそうに話す姿を眺めていた。