第95話:【回想】一夜明け (あの時、一番好きだった君に。)

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 「……おはよー……」
「おはよう千景」
「……うん」
「わー、目の下やばい。まぁあれだけ泣いたもんね。そりゃあそんな顔にもなるか」
「……ごめん。来てくれてありがとう」
「良いの良いの、気にしない。千景だって、いつも私の愚痴に付き合ってくれるんだから。おあいこでしょう?」
「そう言ってくれるとありがたい」
「……少しは落ち着いた?」
「お陰様で」
「それなら良かった」
「朝御飯作るわ」
「あ、良いよ。これ、昨日来る時にコンビニで買った奴。早く行かなきゃって思ったから、適当に掴んじゃったけど」
「全然良い。有り難う」
「少しは食べようか」
「うん」

 摩央はとても気が利く。可愛くて明るくて、私も男だったらこんな子を彼女にしたいと、この時本気でそう思った。摩央の彼氏が羨ましい。

 私はメロンパンを手に取り、袋を開けて頬張った。メロンパンは好きだ。甘くて、外がカリッとしていて、中はふんわり。あのコントラストがたまらない。それでも、今日はいつもに比べて味気なく感じた。メロンパンが悪い訳ではない。当然ながら、今の私の気持ちの問題だ。

「あ、冷蔵庫借りたよ」

 同じくコンビニで買ったのだろう、摩央は冷蔵庫から投入を取り出した。私が最近黒糖豆乳にハマっていたのを覚えていてくれたらしい。嬉しかったがイマイチ顔に出せないまま、受け取ってストローをさした。

「昨日の話ししても良い?」
「良いよ」

 律儀に聞かなくても良いのに。妙にこういうところは丁寧だ。

「結構直球で言ったよね」
「……うん。思いつかなかったし、変に着飾ったり遠回しにしても、後で後悔しそうだったから」
「……正直、昨日も言ったけどさ。私も付き合うんじゃないかって思ってた」
「……あはは。私もさ、正直なところは、付き合えるんじゃないかって思ってた」

 期待した。そんなの、しちゃいけないのに。

「ほぼ彼女だったもんね」
「そうなのよね。自分で言うのもなんだけど。だからか分からないけど、ダメージも大きい」
「付き合ってて振られた感じか」
「そうかも」

 周りから見たら、付き合っているように思われるくらいの仲の良さだ。それだけ親密だったということ。

「しかしまぁ、航河君も罪な男だねぇ。勘違いするなっていう方が無理だと思うけど」
「『勘違いさせたならごめん』って言われちゃった」
「あれだけ口出して、一緒にいたらほぼ彼女だと思う思うっての」
「でも、航河君にとっては違うんだよね」

 摩央がおにぎりを食べきり、お茶を飲み干す。

「言い方悪いけどさ、都合の良い女みたいね。普段は近くにいるけど、思ってたのと違ったらサヨナラ、みたいな」
「それ地味に刺さる」
「え、ごめん。でも、千景も航河君のこと甘やかし過ぎたよね。好きとはいえ」
「……つい」
「頼ってくれるのが嬉しかったんでしょう? 気持ちは分かるけどさぁ」
「……出来るだけ喋っていたいし、一緒にいたいじゃん。好きだから」
「それはそうかもしれないけど、アレあのまま放流して良かったの?」
「放流って」
「次付き合う人とか、仲良くなる女の子結構大変だと思うけど」
「……う」

 罪悪感が今更湧き上がってきた。そうか。考えていなかった。航河君はこの先誰かと付き合う可能性、今回の私レベルに仲良くなる女の子は確かに出て来るだろう。その時これを基準にしたら、私みたいなタイプならやってしまうかもしれないが、そうでなければ気持ち的に辛いかもしれない。

「……分からないもんね。結果どうなるなんて。エスパーじゃないんだから」
「……ちょっと反省」
「まぁ、航河君も悪い。それにそのまま甘えていたからね」
「今後は気をつける」

 今回のこの私の恋は、学ぶことも、反省することも、広く深くあるものだった。

 当面は、立ち直る事は出来ないだろう。それでも、前に進まなければならない。周りの助けを借りながら、きっと進んでいくことになるのだ。

 飲み切った豆乳のパックをクシャリ、と掌で潰して、私は今までのことを反芻するのだった。