第94話:【現在】君も同じ③ (あの時、一番好きだった君に。)

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 宮本くんからの返事が来たのは、その日の夜遅くだった。夏乃を寝かせて、いつものDVDを見る。そのまま歯を磨いて、寝ようと布団に入った頃。
 枕の隣でチカチカと明るくなるスマフォ。通知が入り、宮本くんの名前が映し出された。

『ごめんなさい、夜遅くに。宮本です。今日は中途半端に声かけてすみませんでした。相談事なんですけど、もし大丈夫であれば、今から送らせてもらってもいいですか? 返事は全然、明日とかでも良いので』

 今から送りたいということは、きっと言いたくて仕方のないことなのだろう。それならばと思い、『構わないよ。でも眠いから、寝ちゃうかもしれない』そう返事をした。

 うつらうつらと、スマフォを握りしめたまま意識が遠のく。

“ね、眠い。でも、今頑張って文字打ってるんだろうなぁ”

 内容が酷く気になることもあり、私は出来るだけ眠気を堪えていた。とうとう限界を迎え、意識を手放そうとした時。

 ヴーヴヴ──ヴーヴヴ──

 明るい光と共に、スマフォのバイブ音が鳴った。

「おぉ……来た……寝る……すぐ……」

 はっきりしない頭のまま、届いたkiccaを開く。

『えっと、誰に相談していいかわからなくて。相談っていうのも、変かもしれないんですけど。誰かに聞いて欲しかったんですけど、誰に言ったらいいのか……。
 それで、七原さんなら聞いてもらえるかもって思って。実は俺、同期の沢木さんに告白したんです。それで、好きな人がいるからって振られちゃって。諦めたくないんですけど、しつこいのも嫌われるし、どうしたらいいんでしょう。
 それに、微妙に気まずくて。上手く話せないんですよね。向こうも距離を置いているみたいで』
「おー……あー……そうか……」

 強い眠気も相俟って、もう私はこの内容に驚かなくなっていた。そうか、宮本くんは綾ちゃんのことが好きだったのか。何となく、そんな気はしていた。違ったのは、両思いだと思っていたこと。
 宮本くんは告白していたんだ。それで、振られた後も綾ちゃんのことが好きなんだ。うん、よく気持ちはわかる。好きな人を簡単には諦めきれない。

 綾ちゃんが朝早く来なかった原因もこれだろう。2人きりで顔を合わせたくなかったから、他に来る人がいるだろう時間を過ぎてから出社した。これは、綾ちゃんの気持ちもわかる。またその話がぶり返されるのも嫌だし、何を話していいのかもわからない。
 断った後に変な期待も持たせられないし、今まで通りも程度によっては難しい。……私と航河君の時のように。

「そうだね。そうか。宮本君は、綾ちゃんのこと好きだったんだね。告白出来るのがまず凄いと思うよ。勇気要るよね。よく頑張ったね」

 何様だと思われるかもしれないが、まずは純粋に告白した勇気を褒めたいと思った。私もやってみて分かったのだ、どれだけ勇気の要ることか。そして、難しいことか。それは誰かに褒められるものではない。恐らく。だから私は褒めたかった。お疲れ様と言いたかった。

「私もね、告白したことあるんだけど。なかなか難しいよね、その後どうやって接するか。でも、基本は挨拶をしていけばいいんじゃないかな? 会話は、無理にする必要はないと思うよ。好きだという気持ちも、無理に抑えなくていいと思う。でも、振られたということは、同じ気持ちではないということだから、過度に期待したり、相手に何かを求めたりしちゃあいけない。それは今、宮本君だけの気持ちだから。それに合わせて貰おうと思っちゃあいけない」

 私も昔考えたことだ。私も実は、吹っ切るまで時間がそれなりにかかった。
 『大丈夫』と自分では思っていても、実際は全然大丈夫ではないことが多い。自分の気持ちを過信せず、かつ、向き合い昇華させていくことが大事なのだ。
 偉そうなことを言っているが、当然、相手のことを好きであればあるほど、相手に未練があればあるほど、難しい。

「何処かで折り合いをつけていくしかないね。話を聞くことくらいは出来るけど、宮本君の望む言葉を吐けるかはわからない。でも、前向きに考えるなら、後押しは出来ると思う。自分の中で整理が難しかったら言って来たら良いよ」

 自分の正直な気持ちと経験を織り交ぜながら打つ内容は、過去の私への慰めの言葉にも似た台詞だった。

 ボンヤリと送信を押したことを確認し、そのまま私は夢の中へと誘われていった。