第92話:【現在】君も同じ① (あの時、一番好きだった君に。)

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 我ながら下手糞な言葉だった。こんなに良い言葉が出てこないとは思わなかったし、正面を向いてきちんと話が出来ないとも思わなかった。
 私にとって、アレは終わったことで、今回、自分のような人間を出したくない、そう考えていただけなのに。

“あれじゃあ身構えちゃうし、航河君も不審に思うよね、絶対そうだよね……”

 己のポンコツぶりに嫌気をさしつつ、私はただ、この日綾ちゃんからの連絡を待った。それは何故か。今日2人で会っているのだ。反応が良く、ノリも良ければ、早々に遊ぶ日を決めてくるだろうと思ったから。

 綾ちゃんだって、モタモタしている内に航河君に彼女が出来てしまっては嫌だろう。だから、きっと言えるタイミングで言う筈だ。
 それに、kiccaやメール、電話よりも、顔がちゃんと見えていて考える時間のあまりとられない、対面の方が断る方は断り辛い。断られたくないことであれば、そういう手段をとるだろうから。

“あー……一分一秒が長い……”

 夏乃が隣でスヤスヤ眠る姿を横目で見ながら、私はスマフォと睨めっこをしていた。ひろ君は未だ仕事から帰って来ていない。気にせずスマフォを見ていられるから、好都合と言えば好都合だった。

「うー……」

 仕方なく、暇つぶしのゲームをする。私は育成か経営で、NPCとの交流のあるコミュニケーション系のゲームが好きなのに、最近は面白いものが無い。昔あったアプリはいつの間にかサポートを終え、ストアから消えてしまった。
 専ら電車に乗っている人達が良くやっている、パズルゲームをライフの許す限りプレイしている。

 ヴーヴヴ──ヴーヴヴ──

「わっ」

 突然手の中で振動したスマフォに驚き、思わず手を放してしまった。

「いたっ!」

 落ちたスマフォが鼻を直撃した。

「いったぁ……何度目よコレ」

 鼻を擦りながら、再度スマフォを手に取り、振動の原因を突き止める。

「あ、kiccaか。えーっと……綾ちゃん!」

 待ち侘びていた相手からの連絡。100%来るとは思っていなかったが、高確率で来るとは思っていた。読みが当たったようで嬉しい。が、複雑な気持ちもあった。

「やっぱり、誘ったのかな……まだだと良いな……でも可能性あるよね」

 心の声をダダ洩れにしながら、私は内容を確認した。

『お疲れ様です。今日、桐谷さんと会社帰りにカフェに行ってきました』
「お疲れ様。そうなんだ。美味しいデザートあった?」

 私はあくまでも、今日見かけたことも、航河君に話しかけたことも無かったていで返信した。
 送ったと同時に既読が付き、綾ちゃんがkiccaを開いたままであることが分かる。もしかしたら、このままリアルタイムでやり取りができるかもしれない。
 そう思っていると、過ぎに返事が来た。

『クレープが美味しかったです! あと、抹茶のオレがあったんですが、ほろ苦くて濃くて、千景さんの好きそうな感じでした。今度一緒に行きましょう!』
「わー! 良いね! 行きたい!」
『クレープの他にワッフルもあって、トッピングが結構豊富でした。女性が好きそうなお店です。是非! 行きましょう!』
「うん! 今から楽しみ!」

 指を動かしながら思う。これではただの女子の会話であると。私が知りたい内容が一切書かれていない。

「……今日は何もなかったか?」

 首を傾げ、それならそれで、と思い始めた時だった。

『それで、今日、頑張って桐谷さんをお誘いしたんです。日付はまだ決めていませんが、映画に行くことになりました』

 その文字を読んで、胸が締め付けられる思いだった。そうか。そうなのか。遂に綾ちゃんは航河君をデートに誘ったのか。

「そうなんだ。当日、帰りにやっぱり言うの? それとも、別の日?」
『その日に言おうと思っています。今からもう緊張していて。早く日を決めたいんですけど、時間を置きたいような気もしていて』
「難しいもんね。でも、映画の公開期間もあるだろうし、その辺で都合つけると良いのかもね」
『お互いに見たい映画があったんです! 奇跡だと思いました。今しかないって』

 私は次の返事を打てなくなっていた。何と返して良いか分からない。これで相手のことを知らなかったら、『運命だね』なんて気楽に返していたのだろうが。今回ばかりは不用意に返信出来なかった。

“……マジで困った”

 どう答えるか返信出来ないでいると、続けざまに2通目が届く。

『当日、頑張ります! また、相談に乗ってくださいね』

 私は『うん、勿論相談に乗るよ』と返し、整理がつかない気持ちのまま、可愛い夏乃の寝顔を眺めていた。