第87話:【回想】デート② (あの時、一番好きだった君に。)

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 ──カランカラン──

「いらっしゃいませ」
「あの、17時半から予約していた藤田です」
「……はい! 藤田様、2名様ですね! こちらのお席にどうぞ」

 女性に案内された席に着く。

「本日はご来店誠に有り難うございます。お席の予約で承っております。こちらがメニューになりますので、お決まりになりましたらお呼びください」
「有り難うございます」

 メニューを手渡すと、女性は一礼して離れていった。

「おぉ、何か緊張する」
「雰囲気が良いなぁって。どう?」
「こういうのをノスタルジックって言うの? 懐かしくて、なんかちょっと、幻想的」
「路地裏にある不思議なお店に迷い込んだみたいじゃない? 外観から気に入っていたんだけど。中が想像以上だわ」
「確かに。雰囲気出てるよね。凄いわ、これは航河さん期待しちゃう」
「千景さんも期待してる」

 このお店は、先日見付けたお店だ。オープンしてそんなに経っていなかったらしく、見付けた日は店外に行列が出来ていた。
 そしてその日に、2人分の予約をとった。もし、航河君に断わられたとしても、摩央と来るつもりで。
 よくよく店内を見渡してみると、人の座っていない席には、チラホラと【予約席】のプレートが置かれていた。やはり人気で、夜は予約を取る人が多いのだろう。

 少し暗めの店内。ランタンのような形の明かりに火が灯る。柔らかい光が、テーブルを照らした。
 テーブルは艶のある木で出来ており、まだ傷もなく、映り込むものを反射していた。椅子はベルベットが張られており、私達の座るソファーも、同じ素材だ。臙脂、濃紺、深緑、手触りも良く、店主の趣味が伺える。

 窓は一部ステンドクラスのように、カラフルな硝子で彩られていた。ブラインドではなくカーテンが取り付けられており、少しくすんだ色がまた心をくすぐる。

 カウンターの向こうに置かれたティーカップも、無地の物から花柄、天使、動物が描かれており、目を凝らしてみると、満天の星空や黄昏時を模した柄もあった。
 手描きで描かれているのだろうか。どれも同じものはなく、素敵な作品ばかりである。
 同じ位置に置いてあるポットは、恐らく紅茶用だろう。幾つかティーカップとお揃いに見える物もあった。

「わぁ……素敵……カトラリーが可愛いし綺麗過ぎる」
「またさ、あのカウンターの奥にいるおじさんが良いよね」
「うん、そうだね」

 店主だろうか。コーヒーを淹れる白髪の男性が見えた。

「いけない。注文しないと」
「あ、そうだった。ついつい内装見ちゃったね。千景ちゃんは何食べるの?」
「んー……私はこれかな。ローストビーフ」
「おお、美味そう」
「航河君は?」
「そうだなー。……これにしよう。鮭のムニエル」
「それも美味しそうだね」
「ドリンクとデザート付けて頼む?」
「そうしよ。私ホットミルクティー」
「俺はアイスコーヒーかな。冷たくなくて良いの?」
「ホットにしたら、あの奥にあるカップに注がれると思わない? 更に紅茶なら、ティーポットも一緒に」
「確かに」

 私達はそれぞれの注文をし、運ばれてくるまでの時間を待った。店内への興味ですっかり忘れていたが、この食事が終わり、帰る頃私は航河君に告白する。思い出したらまた妙に緊張してきた。

「千景ちゃん、いいお店見付けたよね」
「そう? ありがと」
「デザートなんだろうね」
「ショーケースにあったケーキかな?」
「あれ? 全部美味しそうじゃん」
「何選んでも美味しいだろうね。楽しみ」
「俺も」
「全部でも食べれそう」
「流石に食べ過ぎ。……でも俺もいけそう」
「ホラ、そんなもんだって」

 お店やメニューの話をしていると、あっという間に料理が運ばれてきた。

「お待たせ致しました。ローストビーフのお客様」
「あ、私です」
「失礼致します。……こちらは鮭のムニエルでございます」
「はい」
「ごゆっくりどうぞ」