第85話:【回想】目論見通り (あの時、一番好きだった君に。)

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 「それで? 祐輔君を振ったわけ?」
「……その通りでございます……」

 今日も大学の食堂に集合する。手軽に使えて有り難い。いつものミルクティーを掻き混ぜながら目も合わせず言う私に、摩央は呆れた声を出した。

「あーあ。やっぱりね。思った通り過ぎて私は怖いよ千景」
「いや、でも、航河君の言うことも一理あるなって」
「んー。分からないこともないんだけどさ。航河君に言われてやめた感がどうしても拭えないんだよねぇ」
「う……」
「自分でも分かってるんでしょ?」
「……うん。で、でも、摩央はそう言うけど最終的な判断を下したのも、それでよしとしたのも、私なわけだし」
「良いんだけどさ。まぁ、航河君に告白する予定もあるし。好きな人いるからって断ってるし。祐輔君は納得してくれたの?」
「一応ね。お試しでも良いって言われたけど、好きな人にきちんと告白したいし、今付き合ったとしてもちゃんと向き合えないから、って言ったら、分かってくれたみたい」

 思いの外あっさりと、祐輔は身を引いた。拍子抜けしなかったと言えば嘘になるが、食い下がられるよりずっと気分は楽だった。
 それに、摩央の言うこともよく分かるが、決断を下したのは私だ。だから、結果としては納得している。
 まだ航河君に告白していないし、結果はどうあれ告白しないままなのも、もうとっくに自分の中では【無し】の選択だった。

「それよか、どうやって告白したら良いか相談に乗ってよ」
「私告白したことないから分かんない」
「私だって無いから分かんない」

 今まで、人に告白したことなんてなかった。告白されて付き合うことはあっても、まず『好きな人が出来たから告白しよう』という考えに至らなかった。好きな人が出来ても、告白したいと思える程の好きな人、という存在ではなかったことも理由だ。

 航河君は、間違いなく【私が今まで好きになった人】の中で、【誰よりも一番好きな人】なのだ。

 困ったのは、いざ告白しようにも、言葉が態度がイマイチ分からないということ。
 『好きです』だけで良いのか、『付き合ってください』と付けた方が良いのか。でも、『好きです』だけだと自分の感情の報告になってしまう。
 かといって、『付き合ってください』まで言わなくても、実は私の中の欲望は満たされてしまう気もする。付き合ってと言って振られるよりも、好きですと言って自己満足で終わった方が、ダメージも少ない。

「仕方ない、自分で考えるか…」
「結局はさ、なるようにしかならないじゃん? どんなに考えて作戦練って挑んだって、その時の状況で大きく変わったりするんだからさ」
「……だよね。雰囲気や場所で、言い方も変わるだろうし……」
「なに? 直接言うの?」
「そのつもり。怖いけどね。電話とか、メールより良いかなって」
「本気度は伺えるよね。メールや電話より、顔合わせた方が誠意が伝わる気がする。私はね」
「あー、でも、優柔不断なタイプだと、断る時は断り辛いかなって思う」
「航河君そんなタイプ?」
「いや、そんなことないと思う」
「じゃあ良いんじゃない? 千景のメンタルが平気なら」
「……平気かと言われるとあれだけど。でもさぁ、こんなに好きになることってないし、ちゃんと言いたいんだよね」
「やだ、なんか恥ずかしいこと言ってる」
「そんなこと言わないでよ。私は真面目なんだから」

 もしこれで振られても、私に悔いはない。……いや、悔いが無いわけではないが、振られたとしても、次に進むことが出来るだろう。

 その時は、もうこの関係は終わる。友達以上、恋人未満の曖昧で心地良い関係が。

「千景も長い片思いだったね」
「……振られたら暫くは片思いかもよ?」
「まぁ、スッパリサッパリは、ちょっと難しいかもね。仲が良過ぎた」
「そうね。仲が良過ぎたわ」

 振られても怖くないように、振られた時のことを話す。

 私はあと数日で、航河君に告白するんだ。