第84話:【回想】言葉に詰まる (あの時、一番好きだった君に。)

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 今日はいつも通りの帰り道。航河君と肩を並べて歩いていた。

「此処からグッと暑くなるのかなぁ」
「梅雨が明けたらじゃない? 俺は海とかプール行けて最高だけど」
「絶好の水遊び日和ではあるか……」
「熱中症には注意だよね」
「怖いからね。水分補給は忘れずに」
「エアコン効き過ぎなのも怖くない? 夏なのに寒い」
「分かる。バイト中もそうじゃない? 私たちは動いてるからまだいいけど、お客さん結構上着着てるよね」
「エアコンの温度上げる?」
「店長に相談してみよっか」

 私は話題の中に祐輔が出てこないよう、祈りながら喋っていた。

「あ、千景ちゃん。そういえばさ」
「どうかした?」
「何か俺に言うこと無い?」
「言うことって?」
「そのまんまの意味」
「んん?」

 航河君の言う意味が分からずに、少し考えこむ。漸く思いついたものは、私が避けたい内容だった。

“……もしかして、祐輔のこと……?”

「え? なんだろう……」
「思い当たる節は?」
「……この間、あのカフェの新作のケーキを一人で食べに行ったこと?」
「なにそれずるい」
「えっ、だって、大学の帰りにたまたま見つけたんだもん。新作出てたの。見つけたらそりゃ食べるしかないじゃん」
「俺も食べたかった! って、それじゃないんだけど」
「えぇ? 違うの?」

 見当はついている。でも、敢えて正解は引かない。知らない振りをして押し通すつもりだった。

「卒業旅行で海外に行くこと?」
「羨ましい。違う」
「就職が決まったこと?」
「おめでとう。でも違う」
「……バイトしないと色々とお金がやばいこと?」
「頑張って仕事して。違う」
「えー、もうわかんない」

 今日は随分と食い下がってくる。早くこの会話を終わらせたいのに。

「……オミさんから聞いた」
「オミさん?」
「祐輔、千景ちゃんに告白したんでしょ?」
「……本当にオミさんが言ったの?」
「うん。それで、一週間後に答え貰う約束らしいよ、って」

 なんということだ。まさかオミさんが言うなんて。きっと、あのニヤニヤした顔で航河君に話したのだろう。祐輔が人を選んで話しているとか、内緒にして欲しい話があるとか、そういうことは一切考えないのだろうか。これでは祐輔も可哀想だ。

「それで? 本当なの?」
「……本当だよ。告白された」

 ここまで言われては、嘘を吐くことも出来まい。

「何で黙ってたの?」

 そう言われて、少し苛々した。まるで全てを報告せねばならないような物言いに。

「何で……って。そんな言わなきゃいけないようなことだと思わなかったから。航河君が当事者でもないし」
「それが理由?」
「そうだけど」

 少し、航河君の眉間にシワがよった気がした。

「どうすんの?」
「何が?」
「祐輔。付き合うの?」
「……考え中」
「祐輔のこと、好きなの?」
「良い子だとは思うけど」
「好きじゃないのに付き合うの?」
「付き合って行くうちに、好きになるかもしれないよ?」
「付き合うってことはさ、デートして、手を繋いだりハグしたり。キスしたりそれ以上があるってことなんだけど」
「……」
「それ、祐輔と出来るの? 好きなら求めてくると思うけど。応えられるの?」
「それは……」

 考えていなかった。そうか。付き合えば当然のようにそういった行為もあるわけで。プラトニックとはいかないのかもしれない。何をもってそう呼ぶかはわからないが、私のイメージするものは、精神的なものだった。

「出来ないなら付き合うべきじゃない」
「……分からない」
「真面目に向き合わなきゃダメだよ」
「向き合ってるよ!」
「付き合って好きになるとも限らない。祐輔を好きになる前に、別の人を好きになったらどうするの?」
「……」
「付き合ってみて、すぐにやっぱり違うってなったら? 迫られるのが苦痛になったら? 別の人に告白されたら?」
「……その時にならなきゃ分からないじゃん」

 酷く責められているような気がした。

「千景ちゃんに祐輔は合わない。もっと他の人が良い」
「……え? なんでよ」
「そう思うから。とにかく、祐輔と付き合うのはやめた方が良い。分かった? 千景ちゃんの為だよ?」

 そう言って、航河君は黙ってしまった。

 見事に航河君にばれ、付き合うことを止められた私は、告白からちょうど一週間後、『好きな人がいるから付き合えない』そう祐輔に告げたのだった。