第83話:【回想】意地悪な神様④ (あの時、一番好きだった君に。)

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「おはようございます」
「おはよう千景ちゃん」

 祐輔に告白されてから初めてのバイトだ。私に気付いたオミさんが、またニヤニヤしながら近づいて来た。

「最近変わったことあった?」
「いいえ? 特に」
「本当に?」
「何か言いたいことがあるならどうぞ?」
「……いや、別に」

 私が憮然とした態度をとると、オミさんはそそくさとキッチンへと戻って行った。

“ニヤニヤしてる理由はもう分かってるんだって、オミさん”

 あの日ニヤニヤしていたのは、祐輔が私に告白すると分かっていたからだ。だから一緒に帰らないよう航河君をキッチンの手伝いに駆り出し、祐輔を先に帰らせた。私をみてニヤニヤしていたことは、思い出しても嫌な気持ちになる。面白半分で首を突っ込まないで欲しい。

 そちらが分かっていてその態度を取るならば、私も分かっているからこの態度を取ろう。

 今のところ、仕事を進めていても、オミさんくらいだあんな態度を取るのは。良かった、皆は知らないか、知っていても何も言わないのだろう。大人の対応だ。オミさんが子供なだけかもしれないが。

 今日、祐輔は出勤していなかった。少しホッとする。あの状態で顔を合わせるのも、少し気まずいと思っていた。

“あーあ、暇か。忙しかったら、考えなくて済んだのに。……いや、考えないといけないのか”

 私は仕事中、ずっと祐輔のことを考えていた。祐輔の良いところを。普段の会話や空気を思い出しながら、付き合ってみたらどうなのかのシミュレーションをしてみる。

“……駄目だ。全然付き合ったイメージが湧かない”

 祐輔はいい子だ。でもやっぱり、弟感が拭えない。

“一週間考えても、同じ答えしか出ないかもしれないぞ……”

 それでも、何か道があるかもしれないと、私は必死に考えた。航河君を好きでいる以外の、その道を。

「……ちゃん」
「……うーん」
「千景ちゃん?」
「……でも……」
「千景ちゃん!」
「えっあっえ?」
「千景ちゃん? 今日は上の空?」
「ご、ごめん。聞いてなかった」
「ぼーっとしてる。危ないよ」
「ごめん。なんでもない」
「本当に?」
「うん、ちょっと考え事してただけ」
「……ふーん」
「気にしないで。本当に何でもないから!」

 心配してくれている航河君には悪いが、航河君に知られてはいけない。何も問題がない振りをしながら、集中を仕事へと戻した。

 そうだ。祐輔の弟感が拭えないならば、そこを逆手にとればいいんだ。
 弟は家族だから、いい意味で緊張感や遠慮がない。ということは、素を見せる云々で気を張ったり、付き合う時独特の気遣いも少なくて済むのではないだろうか。

 今まで付き合ってきた人は、年上が多かった。そのせいもあるのか、言いたいことが言えなかったり、遠慮することが多々あり、飲み込むことも多かったのだ。
 ある程度自分の性格のせいだということも自覚しているが、航河君や祐輔には今のところ冗談を言ったり、自分の意見を言ったりは出来ている。

“これはもしかして良いんじゃないか……?”

 そこそこ祐輔の人となりも理解しているし、お互いの忙しさや状況も分かっている。一から説明したり、ああだこうだ言う必要もなくなるではないか。

“……祐輔に、付き合ってみようか、って言ってみようかな……”

 前向きに考え始めた頃、背中に視線を感じた。
 恐る恐る振り返ると、またオミさんがこちらを見てニヤニヤしていた。が、隣には航河君がいて、航河君もこちらを見ている。
 航河君はニヤニヤしていなかったが、無表情で何処か怖い。

“オミさん見過ぎでしょ……”

 2人は何か話しているようだったが、航河君が首を大きく振ってオミさんから離れていった。当のオミさん手を伸ばして止めようとしていたようだ。だが航河君は止まらず、それを見てオミさんは首を傾げている。

“……喧嘩? だったらやだなぁ”

 これが喧嘩ではないことは後にすぐ分かるのだが、私はこの時【2人の態度】の重要性について気が付いていなかった。