第80話:【回想】意地悪な神様① (あの時、一番好きだった君に。)

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 「航河君、再来週の日曜日、暇?」
「うん、暇だよ」
「新しくカフェ見付けたんだけど。行かない?」
「千景ちゃんがどうしても俺と一緒に行きたい、って言うなら行く」
「……別に広絵でも祐輔でも良いんだけどな」
「嘘。行く」
「じゃあ夜ご飯兼ねる? ディナーメニューも結構魅力的だったんだけど」
「分かった。良いよ」
「17時に駅前で良いかしら?」
「了解」

 覚悟を決めてからの私の行動は早かった。まず、航河君を誘う。興味のありそうな場所へだ。食べることは好きだし、新しいものも気になるタイプ。だから新しく出来たカフェを選んだ。
 そして時間。食事を食べて帰る時に告白する予定なのだ。時間的にはリラックス出来る時間帯だし、ご飯を食べた後で特に警戒心もないだろう。……私と食事に行くのに、そもそも警戒心なんか持っていないかもしれないが。

“約束はしたから、あとは当日……頑張るしかないよね、緊張するなぁ……”

 まだ日があるが、『その日に告白する』と決めたら、航河君の顔を見る度にドキドキが止まらなくなった。顔も赤くなりそうで、自分で頬をつねったりしてやり過ごす。まだバイトの時間は残っているのに困る。伝えるタイミングを間違えたかと思ったが、どうせ良いタイミングなんてものはないし、これで丁度良いのだと言い聞かせた。

 黙々とテーブルを片付けながら、当日のことを考える。既に緊張しているから、当日はもっと緊張するだろう。今からもう恐ろしいが、どうしようもない。

「千景さん!」
「え? あ、はいはい。どうしたの祐輔」
「千景さん、今日も航河さんと一緒に帰るんですか?」
「約束はしてないけど、多分?」

 長い間ずっと一緒に帰っているのだ。シフトが同じ時は必ず一緒に帰る、当たり前のように皆そう思っている。

「今日、一緒に帰れませんか?」
「今日? まぁ、別に構わないけど」

 祐輔は不安そうに聞いてきていたが、それがパアァァアっと、明るく変わるのが分かった。

「良かった! じゃあ、終わったら待っていてもらえますか?」
「分かった。終わったら待ってる」
「はいはい」

 そのままキッチンへと戻って行った祐輔は、キッチンの子に何かを話し、背中を叩かれていた。そのキッチンの子も、祐輔も笑っている。何か楽しいことでもあったのだろうか。

“若いっていいねぇ。……2歳しか歳変わらないけど”

 

「千景ちゃん? 俺今日オミさんの手伝いして帰るわ。頼まれた」
「キッチンの手伝い? 珍しいね」
「祐輔早く帰したいから代わりに手伝って欲しいんだって」
「ふーん。丁度良いね、今日祐輔に一緒に帰ろって言われたからさ」
「祐輔に?」
「うん」
「あー……千景ちゃん」
「何?」
「いや、何でもない。まぁ、気を付けて帰ってね」
「祐輔いるから大丈夫でしょ?」
「そういう意味じゃないんだけど。油断はしないように」
「よく分かんないけど。取り敢えず分かったって言っとく」

 航河君の言葉に首を傾げながら、またテーブルを片付ける作業に戻った。祐輔だって、たまには誰かと帰りたいのだろう。私だって大学の終わりは誰かと一緒に帰り、カフェに寄ったりご飯を食べたり、ショッピングをしている。喋ることが楽しいし、1人だと味気ない。勝手にそんな想像をしていた。

「よし、と。今日は終わり!」

 片付けも終わり、ロッカーへと向かう。着替えてからキッチンに挨拶しに行くと、オミさんがニヤニヤしながらこちらを見ていた。

「お疲れ様です」
「おお、千景ちゃんお疲れ」
「どうしたんですか? ニヤニヤして」
「え? 俺ニヤニヤしてる?」
「うん。とっても」
「そんなつもりないんだけどなぁ」

 と言いながら、指で顎を撫でているオミさんは、やっぱりニヤニヤしていてちょっと気持ち悪かった。その視線が何だか品定めされているようで。

「まぁ、ちょっと聞いてやってよ」
「何をですか?」
「あ。いいや。なんでもない」
「変なの」

 おかしなオミさんは放置して、入り口で祐輔を待つことにした。