第77話:【回想】私は一体どうしたいのか② (あの時、一番好きだった君に。)

スポンサーリンク

 「へ? 何?」
「だから、告白しないの? 航河君に」
「いや、今、食指が動かない、とか、好きじゃないしとか、そんな話をしてたところじゃん?」
「そうだけど、それとこれとは別じゃない?」
「えっ、航河君も結構そういうタイプだと思うけど」
「あんなに仲が良いのに? 実は千景と付き合うために別れたとかじゃなくて?」
「いや、いやいやいやいや。まさかそんな訳ない。うん、ないないないない」

 私は残っていたミルクティーを飲み干した。飲み終えた後も、何度か吸ってみたが、中身は当然ない。酷く喉が渇いた気がして、これでは足りなかった。

「……そこの自販機でジュース買ってきても良い?」
「良いよ。いってらっしゃい」

 私は遠目で何にするかを選びながら自販機へと近付いた。そして、またミルクティーを選ぶと、そのボタンを押す。ガコンと音を鳴らせて出てきた缶はヒヤリと冷たくて、プラスチックの容器と同じで汗を掻いていた。

「それ、入れんの?」
「うん。ストローの方が飲み易いし。おんなじミルクティーだから良いかなぁって」
「まぁ、いいんじゃない?」

 トクトクとミルクティーを注ぎ、蓋を閉めてストローでかき混ぜる。そして一気に飲むと、あっという間にミルクティーは半分以下となっていた。

「……なんだっけ」
「いや、忘れないでしょうよ。だから。航河君に告白するの?」
「……しないってば」
「でも、航河君のこと好きなんでしょう?」
「そうだけどさ。なんか、そういうのじゃないんだよね」
「じゃあどういうのなの」
「大事っていうか、なんかこう、難しいなぁ」
「じゃあ、次会った時、航河君に新しい彼女が出来てても平気?」
「う……それは……」
「『俺の彼女可愛いでしょ、告白されて付き合うことにしたんだ』とか言われて、写真見せられても平気なの?」
「平気かと言われると、平気じゃないです……」
「彼女と別れることを待っている人がいたら? バイト先に連絡先書いたメモ持って渡してきた人いたんだよね? またあるかもよ?」
「でも……」
「あり得ることなんだよ? それは」

 摩央の言葉を聞いて、つい黙ってしまった。分かっている。多分、航河君はモテる。人によっては怖いと思う人もいるかもしれないが、喋って見たらそんなことないのはすぐに分かる。
 だから、今この瞬間も、もしかしたら誰かに告白されているかもしれない。

「航河君に今彼女はいないんだよ?」

 ドキッとした。摩央の言いたいことの意味が分かった。今まで、彼女がいる上で私は航河君と仲良くしていた。美織さんは、航河君のすることに何か言うことはなかった。だから2人で出かけたし、一緒に帰った。
 私の中で、後ろ盾だったのだと。航河君にとって、美織さんがいても、間違いなく私は『一番近くにいる仲の良い千景ちゃん』だった。いや、美織さんがいたからそうだった。
 美織さんがいなくなった今、私が一番仲の良い人間である保証はない。

 次の彼女が、至って普通の感覚、普通という定義は難しいかもしれないが、他の姿勢と2人で出かけることを良しとしなかったら。

 私が航河君とメールをしているのをよく思わなかったら。

 もしそれで、2人が喧嘩することになってしまったら。

 私の位置は、航河君が独り身になったことで揺らいだ。突けばすぐに、崩れてしまうだろう。

 ──【友達】として過ごすには、距離が近過ぎた。

 それも全て、私が甘えきっていたから。そこから抜け出そうとしなかったから。それが当たり前だと思っていたから。

 壊れることはない、と、そう思っていたから。

 私は航河君に新しい彼女が出来たとして、今までと同じように接することが出来るのか考えてみたが、すぐに頭が痛くなった。

“──無理だ”

 頭を抱え首を横に振る。どう考えたってそれは出来ない。そこに私がいない未来しか見えないのだ。

「千景……」

 摩央はそのまま、頭を抱える私をただ見つめていた。