第76話:【回想】私は一体どうしたいのか① (あの時、一番好きだった君に。)

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「それで? 話って一体何ですよ千景さん」
「そうなんです聞いてくださいよ摩央さん」

私達は、大学の食堂にいた。お昼を食べる時間からはズレている。周りには人がいなかった。試験期間は、ここでノートを写している人も少なくない。

「うーんとね。別れたんだって」
「誰が、誰と」
「私と同じ反応。笑える」
「答えてよ」
「航河君が、美織さんと」
「……え? は? 嘘でしょ?」
「……それも同じ反応。だよね。ビックリするよね」
「そりゃあそうでしょう。あんだけあんたと仲が良くても、お互い異性と遊びに出かけても、別れなかった2人なのに」
「ですよねー……」
「何でまた」
「……弟としてしか見れなくなったんだって」
「おお、それはまた、何とも反論し難い……」
「それ言われたらどうしようもないよね。『異性として見れなくなった』ってことでしょう?」
「平たく言えばね、そうだわね」

はぁ、と、2人同時にため息を吐く。揃うとは思わなかった。そして同時に、目の前のドリンクを手に取った。飲み始めてストローから口を離すタイミングまで同じである。今日のシンクロ率は高い。

「まぁ、航河君は元気?」
「んー……まだ空元気って感じ。バイトは普通にこなしてるよ。変わらずお客さんに愛想も良いし」
「周りは知ってるんだよね」
「知ってる。航河君が自分で話してた。笑い話みたいにしていたけどね。実際は笑えないと思うよ」
「だよね。強がりかぁ」
「多分」

カラオケに行った、あの別れたと告白を受けてから、何度かバイトは一緒になっていた。いつもと変わらないように見えたが、時々暗い影がよぎるようにも見えた。私の思い違いなら良いが、そんなにすぐ簡単に割り切れるものでもないと思っている。

その間お店は忙しく、航河君は店長の仕事まで手伝うようになっていた。その結果、一緒には帰らず、私は裕輔と一緒に帰っていた。1人は危ないからと、航河君に頼まれたらしい。嫌な顔せず、裕輔は私を家まで送り届けてくれた。

「気分転換に誘おうかなって思ったけど、ちょっと話しかけづらくてさ」
「そうなるよね。まぁ、様子見したら? 出掛けたくなったり、飲みたくなったら、態度に出すんじゃないの?」
「出すと思う。それ待ちしようかな、下手に声掛けて、嫌なこと思い出させてもアレだし」

どこかに連れ出そうか、ずっと悩んでいた。自分以外からも同じ意見が聞けて、ホッとする。
男同士、きっと直人も声を掛けるだろうし、友達は他にもいる。私1人ではないのだから。

「そう言えば、私も昨日彼氏と別れたよ」
「え!? めっちゃあっけらかんとしてない!?」
「まぁ、仕方ないかなーって。私もバイト忙しかったし、向こうも仕事忙しかったし」

社会人の彼と付き合っていた摩央も、まさか別れていたとは。

「んで、こないだオフ会で会った子に告白された」
「それはまたスピーディな展開」
「お断りしたけどね」
「あ、断ったんだ」
「だって、別に好きじゃないし。なんか、付き合っても良いかな、って思えなかったから。友達なんだよね」
「ハッキリ言えるのは良いんじゃない? なぁなぁで付き合うよりも」
「でしょ? 彼氏いるか聞かれて、別れたって言ったらそのまま告白されたの。『彼氏いないんだからお試しでも!』って言われたけど、そうじゃあないんだよね。全く食指動かないし」
「あはは。当たって砕けちゃったね」
「適当に付き合うより良いでしょ」
「確かに」

私はずっと、ミルクティーをストローでかき混ぜていた。何となく、手を動かしながら話すと、喋り易い気がしたからだ。プラスチックの容器は汗を掻き、テーブルを水滴で濡らしている。

暫くして、摩央は目の前にあったアイスコーヒーを一気に飲み干すと、プラスチックの容器をペコペコと押しながら私に聞いた。

「んで? 千景は航河君に告白するのかい?」