第69話:【現在】予想外の告白④ (あの時、一番好きだった君に。)

スポンサーリンク

 私は何も言えないでいた。告白、だなんて。今日全てを聞くには、私には重た過ぎる話だったのだ。

「……千景さん?」
「え……あ、あぁ、ごめん」
「どうしました?」
「ううん、凄く、凄く勇気があるなぁって。綾ちゃん、凄いね」
「えへへ……ちょっと、やっぱり怖いんですけどね」

 綾ちゃんの声が遠く聞こえる。それでも、私の耳にはきちんと入ってきた。

 桐谷さんに断られたらどうしようか。一緒に帰ることも出来なくなるんじゃないか。連絡を取ることも出来なくなるんじゃないか。
 仕事は気まずくならないか。扱いが冷たく、素っ気なくならないか。周りにはバレたりしないだろうか。このままちゃんと、今のプロジェクトを続けることが出来るだろうか。

“……や、だ。やだやだ。何、この気持ち”

 きちんと、告白することが出来るだろうか。思いの丈をぶつけられるか。後悔のないように出来るか。どんな答えだったとしても、受け入れることが出来るだろうか。

“苦しい、変、どうして……”

 昔に私が悩んだように、同じように綾ちゃんもまた悩んでいた。

「それでも、ちゃんと言いたいなって、そう思えたんです。もう、こんなこと、ないかもしれませんし」
「……うん、そうか。そうだね、そうかもしれない」
「会社に怒られちゃうかな? 別の会社で、ウチに来てくれてるのに! って」
「……どうだろうね。全部、全部黙っておけば良いんだよ。そしたら、誰にも分からないから」
「そうですよね。本当は、プロジェクトからお互い外れてからが良いんでしょうけど。いつになるか分かりませんし」
「うん」
「その間に、桐谷さんに彼女が出来ても嫌だなって、思ったんです」
「……そうだね」
「もしかしたら、どちらかがプロジェクトから外れたら、お互いに連絡とらなくなるかもしれないですし。私がいつも桐谷さんに送っているんで、きっとそうなると思ってるんです」
「そうなったら、そう、それはそれで辛いもんね」
「分かってもらえますか? 良かった、千景さんに相談して」

 今日一番の笑顔を見せる綾ちゃん。その笑顔が、私には苦しかった。

「ちゃんと結果は、千景さんに報告します。……上手くいっても、例えダメでも」
「あはは、良い結果だけちょうだい」
「お話聞いてもらったから、ちゃんと言うんです!」
「律儀だねぇ、綾ちゃんは。分かった。その時は教えてね」
「はい! 私頑張ります!」

 胸の前で小さくガッツポーズを取る綾ちゃんは、何も知らないのだ。

「そうだ、千景さんは、桐谷さんのことどう思います?」
「どうって?」
「よくご存知ですもんね。性格とか、行動とか。そう言うところで、私の知らないこと、教えてもらえたらなぁって」
「そう、だね。変わらないよ。多分、綾ちゃんの知っている姿と、私の知っている航河君は」

 ──いや、違う。綾ちゃんが知らない航河君の姿はある。

「そうなんですか? 裏表とか、態度を変えるとか、無いんですね」
「素直だしね、人当たりも基本的に良いし」

 ──そう。人当たりもいい。でも、私の知っている航河君は、それだけじゃなくて。

「桐谷さんって、女の子の話とかするんですかね?」
「んー、どうだろう。そんなにしたことはないかな」

 ──よく聞いていた、彼女の話を。今は、直人に私の話をして。

「千景さん、もしかして桐谷さんに好きな人がいるか知ってますか?」
「どうして?」
「いえ、桐谷さんも、千景さんにならそういう話するのかなって」
「私にはしないよ。っていうか、航河君とそういうあんまり話しないかも。」

 ──嘘じゃない。私は航河君とそんな話はしていない。ただ、直人から聞いてしまっただけだ。

「割と秘密主義なのかな、そういうところは桐谷さん。でも、今日はありがとうございます。付き合ってくださって」
「良いの良いの。気にしないで」
「……よし! 私も歌います! これを、と」
「自分から入れるなんて珍しいね」
「褒められたんです。『可愛い声だね、その歌歌うの合うね』って。凄く嬉しくって。だから、この歌には自信持てるんですよね」
「……うん、その歌は、綾ちゃんによく似合うよ」

 健気な少女の一途な恋の歌。私はゆっくりと目を瞑り、綾ちゃんの歌声を聞いていた。