第68話:【現在】予想外の告白③ (あの時、一番好きだった君に。)

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 自分でもよく分かった。血の気が引いていくことを。違った。宮本君じゃあなかった。そんな。嘘だ。綾ちゃんの好きな人が、航河君だなんて。
 心音が早くなる。どうして良いかが分からない。何と言ったら良いのか。どんな顔で綾ちゃんを見れば良いのか。この一瞬が何時間にも思えるほど、私の頭の中は回転していた。

 ──あぁ神様。アナタはなんて残酷なんだろう。

「航河……君?」
「はい。そうです」

 私の思いとは裏腹に、打ち明けたことでスッキリしたのか、綾ちゃんは良い笑顔をしていた。やっとのことで出した言葉を、アッサリと返されてしまってはそのまま話を続けるしかない。

「あ、はは。そっか。うん、そっか」
「千景さんは、桐谷さんと仲が良いんですよね?」
「え? あぁ、まぁ、うん」
「村野さんから、昔バイトで一緒だったって聞きました。元々お知り合いだったなんて、知らなかったです」

“村野さんめ……余計なことを……”

 何処にもぶつけられない苛々を感じながら、綾ちゃんに問うた。

「……綾ちゃんは、ほんとに航河君が好きなの?」
「はい、そうですよ? 優しくされた、っていうのもあるかもしれませんけど。あんな風にちゃんと接してくれたのは初めて、っていうか」
「……そっか」
「ダメですか?」
「へ? え、あ、いや、ううん、えっと、なんていうのかな、そうじゃなくて。いや、何か、その、ビックリしたっていうか、意外だったっていうか」
「桐谷さん、見た目かっこいいですけど、ちょっと何処か怖いなって思ってたんですよね。態度というか、姿勢というか。でも、ちゃんとお話ししてみたら、全然そんなことはなくて」
「……うん、良い奴、だよ」

 それしか言えなかった。こんなに嬉しそうに、頑張って話をしてくれる綾ちゃんには。

「羨ましいです。千景さんが」
「なんで?」
「昔の桐谷さんを知っていて、今の桐谷さんも知っているから。……変ですよね。何だか、2人には皆が入れないような壁があるっていうか、特別な何かがある、そう思えて」
「……そんなことないよ。昔から知ってるってだけで。なにも」

 そうだ。何もない。ただ同じバイト先で仕事をしていて、たまたま今回同じプロジェクトに配属された。今まで関係ない人生を歩んでいたのに、偶然が重なっただけ。

 本当に、これは神様の悪戯で、でなければ私も再会することなんてなかった。そう思っている。『世間は狭い』の見本かもしれないが、そんな見本になんかなりたくなかった。

「千景さんは、桐谷さんと出掛けたりはしないんですか?」
「え? 今?」
「はい」
「うーん……。2人では流石に無いよ。私も結婚しているし、変な誤解を周りにしてほしくないしね。この間のカラオケみたいに、集団だったらあるかもしれないけど」
「……昔は、どうですか?」
「昔?」
「そうです。桐谷さんに聞いても、『出掛けたことはあるよ』くらいにしか教えてくれなくて。仲良さそうなのに、曖昧だなって」
「そうね。航河君の言う通りかな。出掛けたことくらいはあるよ。皆仲良いって言うけどさ。その程度なんだ。皆だいたいが一から知り合いになるでしょ? あのプロジェクトで。だからそう思えるだけ」

 私は嘘を吐いた。自分でも驚くほど、ごくごく自然に。

 ──そんなことはない。彼女がいるのにしょっちゅう2人で出掛け、何なら誕生日まで祝った。彼女も含めだがお揃いのキーホルダーまで持っていたり、社員さんの家に泊まったこともある。別の男の子の誘いを断って2人でカフェに行き、メールもして、バイトの帰り道はいつも一緒だった。
 ……これで仲が良いのでなければ、、一体何だと言うのだろう。

「今日は、悩んでいたんです。何処まで言おうか、何を喋ろうかって。でも、此処まで言ったら、全部言っちゃおうかなって」
「……どうしたの?」
「……私、今度、桐谷さんをデートに誘うつもりなんです。それで、もし、良いよって言われたら」
「言われたら……?」
「その帰りに、告白しようかと思っています」

 私は願った。直人の言っていたことが私をからかう為の嘘で、本当は私のことなんか航河君は何とも思っていないことを。
 そして、航河君の無邪気なその優しさが、また誰かを傷つけないようにということを。