第66話:【現在】予想外の告白①(あの時、一番好きだった君に。)

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「今日もお疲れ」
「お疲れ様です」
「最近忙しいよね? 大丈夫? 遅くなってない?」
「大丈夫です。あっという間に真っ暗になっちゃうんで、ちょっと怖いですけど。時間的には何とか」
「そっか。なら良いけど。……綾ちゃんが言い辛かったら、私がリーダーに言うから。教えてね」
「有り難うございます」

ふにゃっとした笑顔を見せる綾ちゃん。彼女、沢木綾ちゃんは、あのプロジェクトでは数少ない女性だ。4月に新人として入ってきて、今のプロジェクトに配属された。【後輩ちゃん】とつい言ってしまうが、ちゃんと本人を前にして言う時は、【綾ちゃん】だ。芯がしっかりしていて、色んな点に対して気付きも多いので有難い。
同じように【後輩君】っと言ってしまうのが、宮本文和君である。綾ちゃんと同時期にこのプロジェクトに配属された。気も利くし、お喋りも上手い。後輩だが風格的には同じくらいに見えないこともないという、頼りになる存在だ。
ただ、綾ちゃんには頭が上がらないらしく、同期の中でも尻に敷かれている感がある。

「先に歌う? 相談事聞く?」
「先に歌っちゃいましょう! 折角のカラオケですし。今日は何を千景さんに歌ってもらおうかなと……」
「なんと!? 今日もリクエスト式!?」
「私が好きな歌、千景さん沢山知ってるんですもん」

何故か仕事以外の時は、綾ちゃんは【千景さん】と呼ぶ。……昔、私を千景さんと呼び、それ以外は千景ちゃんと呼んでいた航河君みたいだった。

時間は迷ったが、取敢えず2時間にした。金曜日と言え、この時間はまだ飲み会の二次会もないし、終わる頃もギリギリ延ばせる時間帯だろう。

「それじゃあ歌いますか! あ、ちゃんと綾ちゃんも歌ってよ?」
「たまに歌います、たまに。基本千景さんで」
「……どんだけ歌えばいいのよ、私」

テンポよく曲を入れる綾ちゃんであったが、5曲ほど入れたところでやめた。そして、ニコニコしてこちらを見た。

“うーん。これらを歌ってくださいね、ってことなんだよね、多分”

それでも、一応聞いてみることにする。

「綾ちゃん、5曲連続で歌うの?」
「え? 違いますよ? こては千景さんへのリクエストです」
「……うん、予想はついたけど、一応聞いてみた」
「うふふ。お願いします」

中々の鬼だ。しかし、可愛い後輩に頼まれてしまっては以下略といったところで、言われたまま歌ってしまうのが悲しい性である。

“それにしても……相談って何なのか気になる……”

歌いながら考えるのは、綾ちゃんに言われた相談についてだった。何度か相談系の話は聞いたことがあるが、そんなに畏まった状態では聞いていない。個室で、他人でもあまり人に聞かれたくない話なんて、一体何なんだろう。
そもそも、私が聞いても良いことなのか、不安になってきた。

綾ちゃんが選曲したのは、どれも片思いや失恋の歌だ。あまり明るいものではない。気分が落ち込んだ時に歌うのは最高だし、スッキリもするのだが。
私が歌うのを聞きながら、画面に表示される歌詞を綾ちゃんはじっと見つめていた。

「──だから その手を離さないでいて」
「有り難うございます千景さん。やっぱりお上手ですね」
「あはは、有り難う。嬉しいよ」
「自分が歌うより、千景んさんに歌ってもらった方が良いんですもん」
「そんなことないと思うんだけどねぇ」
「あります! あ、ドリンク持ってきますね。何にしますか?」
「あ、有り難う。じゃあ、アイスティーお願いするね。ミルクも一緒にいいかな?」
「分かりました」

部屋を出てドリンクバーに向かう綾ちゃんは、何か困っているような、心配事があるような雰囲気ではなかった。

“表に出してないだけ、なんだよね……”

「お待たせしました」
「有り難う、綾ちゃん」

私はグラスを受け取ると、中にミルクを入れてストローでかき混ぜた。ミルクと紅茶が混ざる渦をゆっくりを消していきながら、それがなくなった頃に口に含んだ。
「……それで?」
「えっ?」
「いや、悩みよ悩み。このままいったら、千景さんのワンマンライブで終わってしまうもの」

綾ちゃんは、また曲を入れようと機械に手を掛けていた。

「えーっと。そうですよね。折角来ていただいたので、、ちゃんとお話ししなきゃダメですよね」
「言いたくないことなら良いんだけどさ、無理に言わなくても。でも、まぁ気にならないと言えば嘘になるかなぁ」
「……ですよね」

綾ちゃんは機械から手を放して、こちらへと向き直った。

「実は、その」
「うんうん」
「私……好きな人が出来て」
「わ……! ほんと!?」

私はパァァアっと笑顔になった。綾ちゃんは、ずっと上手く異性と話が出来ないと悩んでいた。素っ気なくなってしまったり、当たりが強くなってしまったり。そんな風だから、彼氏が出来ないかも、と前に言っていた。好きな人が出来たら、変わるのかなとも。
綾ちゃんはそのまま話し続けた。