第65話:【現在】直人からの報告③ (あの時、一番好きだった君に。)

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 それから、ポツポツと直人からkiccaが届いた。内容は勿論、航河君のことだ。

 内面的には、当時からあまり変わっていないらしい。私がいなくなってから、似たような子が何人かいた、というのに驚いた。つまり、女の子と仲良くなるのは上手いのである。
 言われてみれば、喋り易いし冗談も言う。優しくて気も利くし、見た目もかっこいい。そうなれば、寄ってくる女の子も多いだろう。

 あれだけ彼女のことが好きだったのだ。別れた時の喪失感は、非常に大きなものだっただろう。その気持ちはわかる。
 私も、航河君と離れてから、苦しくて辛い日々が続いた。それだけ私の中で航河君の存在が大きくて、心を埋め尽くしていたのだから。

 一つ、直人に怒られてしまった。『航河のことを甘やかし過ぎていた』と。
 それは謝った。そうだ。自覚していた。私は航河君に非常に甘かったのだ。前も考えていたが、大体のことは断らないし、付き合う。何でも『はいはい』と聞いてしまっていた。……中には聞き流していたこともあったが。
 
 話してくれるのが、頼ってくれるのが嬉しくて、またきてくれるように、何とかしようとしていた。私が告白して振られた時、摩央にも『甘やかしっぱなしのまま放流するな!』なんて怒られたっけ。でも振られてしまっては、どうしようもない。
 その前にどうにかすれば良かったのかもしれないが、当時の私には出来なかった。自分の気持ちをすべて優先してしまっていたから。

 その行動が、後を引くなんて思ってもみなかった。私と航河君の間にしかないものだと思っていたし、そういう意味では自惚れていたのだと思う。

 もう一つ、忠告されたことがあった。それは、『会社の女の子が同じことに陥らないよう留意するように』であった。
 内面的に変わっていない、ということは、私にとったような態度を、私と会わなくなってから他の女の子にとった態度を、今のプロジェクトにいる女の子にもするかもしれないということだ。
 それを直人は心配していた。軽く流せる人ならいいが、うっかり真に受けたり、好きになってしまうといけない、と。

 用心するし、何かあれば私から航河君に言うのも厭わない。そう思ってはいる。何もないのが一番だが、現実は何が起こるか分からないのだ。

「……はぁ。一応摩央にも連絡入れるかな。同じような懸念していたし」

 私は正直に、直人から聞いた話を摩央に送った。その日は返事が返ってこず、翌日に来た返事には『やっぱりか』そう書かれていた。
 そして、『あんたは大丈夫だろうけど、周りには配慮してやってね』とも。

 直人も摩央も、私のことは心配していなかった。『なびくなよ』くらい言われると思っていたが、その心配をしなくても良いと判断されたことが、素直に嬉しかった。きっと、私の態度や言葉に、そんな要素が微塵も見られなかったんだろう。

 ……ちょっとだけ、また普通に喋られるようになった時は嬉しかったが、仲が悪い相手がいるのが嫌だっただけかもしれない。

 ──このことを聞いてから、私は航河君への接し方がわからなくなっていた。時々、『これで良いのか?』と思うとぎこちなくなり、怪しまれていないか、知ったことを気付かれていないか、心配になる。

 昔に比べたら、私も大人になった。だから、平常の毎日を送ることが出来て、航河君になにかを突っ込まれることもなかった。

 寒い毎日が続き、月も2月へと移り変わる。私が後輩ちゃんと約束していたカラオケの日がやってきた。

“航河君に知られたら、『俺も良く!』って言われそうだもんなぁ。バレないようにしよう……”

 カラオケに行くのは、あの皆で行った時以来だ。好きだが、社会人になってからは行く機会も減った。バイト上がりにオールしたり、飲み会帰りに二次会で寄ったりもした日々が懐かしい。

 後輩ちゃんは、少しだけ残業になったらしく、私は先に会社を出た。まだまだ突き刺すような寒さの中、マフラーで口元を覆い、少しでも暖をとるようにしながら歩く。そして、お店の前で、待つことにした。

“今日は何歌おうかな”

 前回行った時は、片思いソングばかり歌った気がする。2人しかいないから、半々の時間で歌うことになるだろう。いつも同じ歌ばかりになってしまうから、たまには違う歌を歌うのも悪くない。

「先輩! お待たせしました!」
「お疲れー。無事終わった?」
「はい、終わりました」
「じゃあ、入ろうか」

 2人には少し大きい部屋に通される。此処のカラオケ店は気に入っている。部屋それぞれにコンセプトがあり、綺麗でたばこのニオイもしない。大きなソファにゆったりと座りながら、お喋りも楽しめるのだ。今日にはもってこいの場所。ドリンクバーを取り、取り敢えず荷物を置いた。