第62話:【現在】元に戻る (あの時、一番好きだった君に。)

スポンサーリンク

 電話奪ってごめん連絡から、ポツポツとまた航河君と話すようになった。前ほど気軽にではないが、必要最低限な挨拶と仕事の話のみに比べたら、航河君の機嫌も直ったのだろう。
 機嫌が直った、なんて言い方はおかしいかもしれないが、きっとそれくらいの言い回しが丁度良い。

 私はここのところ、ひろ君が借りてきてくれたDVDを楽しみに仕事をしている。一度に沢山見ることは出来ないが、だいたい3日で1、2本くらいのペースだ。
 レンタル期間が倍になるということで、ひろ君は10本まとめて借りてきた。見るのは大変だが、自分が好きなシリーズだし、それを見るためにひろ君も早く帰ってきてくれる。一緒にいる時間も会話も増えて、私にとって喜ばしい出来事しかなかった。
 ついでに言えば、見るために夏乃も早く寝かせるため、朝起きた時の夏乃の機嫌も良く、最近は朝から不毛な戦いをせずに済んでいる。
 まだ全部見終わってはいないが、シリーズで10作品以上出ていた気がする。暫くは飽きそうにない。

「千景ちゃん、最近ご機嫌だね」
「ん? そう?」
「うん。何だか毎日ハッピーって感じがする」
「陰気な顔して仕事するよりいいよねー」
「確かに。何か良いことあったの?」
「まぁね」
「ふーん。……うらやま」

 書類を出しに来た航河君に話しかけられた。羨ましがるが良い。毎日早く帰るために効率を上げて仕事をしているから、私が仕事を貰っているリーダーもご機嫌なのだ。お陰で雰囲気も良くやり易い。

 音符でも飛ばしそうなくらい上機嫌な私は、テンポよくキーボードを叩きながら作業を進めた。……席に戻る航河君の視線を感じたが気にしない。

“今日も楽しみね”

 見終わった書類をトントンとまとめて、ファイルにしまった。いつもファイルにしまってから、総務へと持っていく。向こうへ行くと、色々とお菓子を貰ったりお土産のおすそ分けを貰ったりするから、週に何度かの息抜きになっていた。

「あっ、先輩!」
「んん? どした?」

 可愛い可愛い後輩ちゃんだ。彼女とは今度は2人でカラオケに行く約束をしている。

「あの、私も総務に用事があるので、一緒についていっても良いですか?」
「良いよ良いよー。今から行こうと思ってたけど、大丈夫?」
「はい!」

 私は後輩ちゃんを連れて総務へと向かった。

「先日旅行に行ってきまして。総務の方々にもお土産を買ってきたのですが、持ってくるのをずっと忘れていたんですよね」
「この間のクッキー美味しかったよー。それだよね」
「そうですそうです。私も試食してみて美味しかったんで、見た目も可愛いしこれにしちゃいました」

 パッケージには愛らしい猫が印刷されており、中身は肉球を模ったクッキーの入っている箱を、後輩ちゃんは両手で胸元に大事そうに抱えていた。

 渡してみると総務の人達にも大好評で、イチゴとチョコとある肉球の色を見ながら、どちらにするか誰もが真剣に悩んでいた。ピンク色も茶色も可愛い。これを作った人は、猫、いや、肉球が大好きなのかもしれない。

「好評で良かったね」
「安心しました。えって顔されたらどうしようかと思っていたんで……」

 後輩ちゃんは心配性だ。アレルギーや猫嫌いならダメかもしれないが、そうでなければ皆まずは受け取ってくれるのだから。

「そうだ。先輩、カラオケいつ行きます?」
「あ-、そうねぇ。まだ日付決めてなかったっけ」
「月末月初は忙しいですよね?」
「そうだね、勤務表もあるし、返されてくる奴もあるだろうし……」

 私も極力細かく見ているようにしているので、一度見た書類が戻されることはあまりない。だが、私も他の総務の人も人間だ。間違えたり、見落としたりすることはある。ゼロの月もあるが、やはり毎月人の増減があるといつもとはいかない。
 あくまでも私は第一確認だから、そのあと別の人が再度確認する。大切なお金が絡む話だ。念には念を入れてチェックする体制になっている。
 それに、精算書を駆け込みで出す人も割といるので、一日に見なければならない量がグッと増えるのだ。これは、何度周知してもなくならない悩みの一つだ。

「では、来月の中頃の金曜日は如何ですか?」
「うん、旦那に聞いてみるね。問題なかったらそこにしよっか」
「はい! 宜しくお願いします!」
「返事来たら連絡するね」
「待ってますね。先輩には、色々と相談したいことがあって……」
「そうなの?」
「はい。聞いていただけたらなぁと」
「分かったよ。でも、カラオケで良いの? カフェとか居酒屋じゃなくて?」
「良いんです。人の目があると、気になってしまって」
「そっか、じゃあ個室のカラオケが良さそうだね」
「お願いします」

“なんだろう、相談って”

 そのままひろ君にkiccaを送る。すぐに来た返事は『問題なし』だったので、それを後輩ちゃんに伝えた。
 カラオケの日取りも決まり、私はまた仕事へと戻った。