第60話:【現在】年が明けても③ (あの時、一番好きだった君に。)

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 洗濯物を畳みながらテレビを見る。ニュースを見る時間も少ないので、貴重な時間だ。好きなドラマを見る時もあるが、今日はやっていなかった。

「うわぁ……最近子どもを巻き込む事故が多いねぇ……」

 そんなニュースを見る度に、心が痛んだ。そして、もしそれが夏乃だったらと想像しては、親御さんの気持ちになり、より深く沈んでいく。

 洗濯物が畳み終わり、どうしようか悩んでいた。明日は休みだから、お弁当の準備もない。普段よりも時間が余り、することがなくなってしまったのだ。

「漫画でも読もう」

 本棚を漁り、何冊か漫画を取り出した。お気に入りの漫画は、男の子が女の子を溺愛している恋愛漫画である。絵柄が非常に好みで、話も深い。女の子がつんけんしているさまも可愛らしくて心を掴まれた。
 登場人物は皆魅力的で、会社の先輩の一押し漫画だったのだが、試しに読んでみたら見事にハマり、全冊大人買いで新品を揃えた。ちなみに、同じ漫画家さんの別の漫画も購入した。こちらも堪らない。──先輩は本当に好い趣味をしている。勿論、嫌味や蔑みではない。

「いいなぁ、こんなに愛されたい」

 ……と言って、ひろ君に失礼かということに気付く。漫画の中の恋は盲目的で偏執的だ。現実とは違う。

「……もうちょっとさ、好きだって気持ちを表に出してくれてもイイのに」

 ひろ君は、『好き』だとか『愛してる』といった言葉をよくくれる。でも、態度に表して欲しいと思う時もあるのだ。意味もなく抱きしめたり、不意にキスをしたり、手を繋いだり。私が欲張りなのかもしれないが、自分からすることの方が多いと考えたら、偶には向こうからして欲しくもなる。

「贅沢な悩みなのかなぁ。世の奥様方はどうなんだろう?」

 漫画の中で繰り広げられる、甘くて苦い恋愛と焦れったい感情に思いを馳せながら、伸ばした手は4巻目を掴んだ。漫画を読むと流れる時間が早い。好きな漫画なら、何回でも、何時間でも読める。

 ヴーヴヴ、ヴーヴヴ

「……ん? あ、ひろ君」

 今日は電話が多いなと思いつつ、通話を押した。

「もしもし」
『あ、もしもし? 終わったから今から帰るよ』
「ん、お疲れ様」
『夏乃はもう寝た?』
「とっくに」
『そっか。千景はなにしてた?』
「漫画読んでたよ。止まらない」
『あはは、帰りにDVD借りていくから、一緒に見ない?』
「何の?」
『事件捜査系』
「見る!」
『じゃあ借り手から帰るね。レンタルのすぐ近くのお店だから、そんなに遅くはならないと思う』
「うん、分かった」
『あ、あと』
「何?」
『前に花火大会で会ったイケメン君と……今千景の会社に来てるあの子、見たよ』
「えっ? 何処で?」
『店で。見間違いじゃなければ、同じ店にいたみたい。俺らがお会計してから、イケメン君にあの子が担がれて出てきた』
「わー……」
『イケメン君なんか怒ってたけど。飲み過ぎとかそんなのかな』
「……そうかもね」
『それじゃ、借りていくから。ついでにコンビニでジュースでも買って帰るよ』
「うん、待ってる」
『それじゃ』
「はい」

 通話を切り、息を吐く。

“同じお店にいたなんて、凄い偶然……”

 ひろ君の話から想像すると、航河君はきっと帰るまであのままだったのだろう。直人から電話があって結構な時間が経っている。帰るまでに時間がかかったということだろうか。抱えていたなんて、やはり航河君は相当飲んだらしい。直人の苦労が目に浮かぶ。

「逆はあったんだけどねぇ。直人の方が、航河君よりも大人になったのかな」

 掌で振動するスマフォを見ると、直人からkiccaが届いていた。

『無事撤収出来ました』

 見たことのない、げっそりと痩せた男の人のスタンプが押してある。

「おおー……お疲れ様」

 ひろ君に聞いたことは一旦伏せ、労いの言葉を返す。
 そしてまた、漫画の世界へと戻った。

 ひろ君が帰ってきて、ひろ君のお風呂が済んでから、借りてきたDVDを一緒に見る。私の好きなシリーズを、ひろ君は選んで借りてきてくれた。嬉しい。

 その間、スマフォが鳴ることはなく、ひろ君とああでもないこうでもないと言いながら、遅くまでDVDを見ていた。