クリスマス会兼忘年会のメンツに、祐輔は入っていた。私が断わったのもあり、バイトは休みだったようだが、その後のイベントは参加にしたらしい。
店長は私が航河君と出勤したのを見て、『なんだ、やっぱり』みたいな得意げな顔をしていた。少しばかりむかついたが、先日痛い所を突いて撃沈させてしまったので、見て見ぬ振りをしてやり過ごす。
蓋を開けてみれば今回は結構な人数で、上の人も含めた結果20人ほどになっていた。
“これでアイピロー当てるって無理じゃない?”
航河君の意気込みを無謀だと思いながら、通された居酒屋の席に着いた。
前回とは違う系列店である。このお店はお肉に力を入れているらしい。少し暗めの店内に、オレンジ色の照明が暖かく感じる。全体的に木を基調としているので、アットホームな雰囲気だ。
目の前に出されたローストビーフのサラダをつまみながら、それぞれが思い思いの話をする。私の隣はオミさんだ。乾杯をして一杯目を飲む。皆ビールだが、何でもいいと言われたのでグレープフルーツジュースを頼んだ。
少しアルコールを飲んだだけで、既に真っ赤になったオミさんが話しかけてくる。
「千景ちゃん、今日デートだったんじゃないの?」
「え? そんなの誰から聞いたんですか?」
「いや、なんとなく。シフト入ってるって思ってなかった」
“何でシフト入ってるって思わなかったんだろ”
首を傾げそうになったが、意味が分かった。私は今日祐輔に誘われていたから、キッチンの人は私が祐輔と出掛けたと思っていたのではないか、と。実際は航河君とケーキを食べていたのだが、祐輔が事前に相談していて、誘いを断ったことは話していなかったのではないだろうか。
「仕事入れてましたからね」
「1日?」
「いいえ、夜です」
「じゃあ午前中とか、出掛ければ良かったのに」
“いや、祐輔に誘われたのは、夕方前からだったのよ”
「なんで出掛ければ良かったんです?」
「えっ? いや、別に、なんとなく」
分かっていて敢えて問いかけてみた。きっと何も分かっていないと思っているだろうに。無責任なことは以下略だ。面白がらないでいただきたい。
「そういや航河は、今日彼女とデートじゃないの?」
「俺ですか? 彼女今日仕事ですもん」
「……ドンマイだな」
「埋め合わせしてもらうんでいいっす」
埋め合わせ、その台詞を前も聞いた気がする。前の埋め合わせは、きちんとされているんだろうか。他人のことだがちょっと気になった。
「よし、今日は飲もう飲もう!」
オミさんの言葉を切欠に、もう一度乾杯が始まった。心なしか、航河君も、祐輔も店長も、アルコールを口に運ぶ頻度と、店員さんに注文する頻度が多い気がする。
そんな私はというと、摩央とメールをしながらチビチビとグレープフルーツジュースを飲んでいた。
『祐輔君は? 普通なの?』
「今のところ普通」
『そっか、航河君は?』
「あー、そうだ。2人ともお酒飲むスピードが速い」
『え? 両方とも断わられたヤケ酒?』
「そんなまさか……いや、、あるか」
『あるあるでしょ』
「あ、やっぱりね、キッチンの人知ってたっぽいよ。オミさんに『今日デートだったんじゃないの?』って聞かれたから」
『マジか。ネタにされてないといいけどねぇ』
「私もそう思う」
やり取りをしながらが意外と楽しかった。各々飲んでいるし、喋っている。一人くらい混じってなくても問題なさそうなのだ。黙々と食べていてもつまらないし、この方が箸も進む。
ヴーヴヴ、ヴーヴヴ
「あ。え」
そんな時、電話がかかってきた。今メールしていた摩央だ。
「──もしもし?」
『もしもし! 千景?』
「どうしたの? メールしてたのに」
邪魔にならないように席を立つ。お店を出て、自分のいた席が見える位置に移動した。