第53話:【回想】プレゼントと飲み会と① (あの時、一番好きだった君に。)

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 「此処のケーキ本当に美味しいね。航河さん気に入っちゃったよ」

 目の前で、航河君が美味しそうにフルーツタルトと苺のショートケーキを頬張っていた。
 今日は12月24日。クリスマスイブだ。あれから、私のシフトはそのまま受理されて今日に至る。

 どうも、夜だけでなく昼間も入って欲しかったようなのだが、『千景ちゃん昼空いてないかなぁ』の店長の台詞に、航河君が『昼は用事あるって言ってましたよ。デートじゃないですかね?』と答えた結果、私のこの時間は守られたらしい。『航河がいるのに!?』と驚いた店長から直接このやり取りを聞かされた。
 回答が面倒だから、別に教えてくれなくても良かったのだが。当の私は、『店長はデートしないんですか?』と、先日気になっていた女性をデートに誘い、あっけなく振られた店長に言ってのけ、見事返り討ちにした。

 罪悪感もあったが、言われたくないことや聞かれたくないことなど、誰しも一つや二つあるだろう。

「何でデートじゃない? なんて無責任なこと言ったのよ。バイト先の誰かに今の状況見られたら一体どうすんの」

「その時はその時じゃない? デートと言えばデート? みたいな?」

 意に介さずタルトに舌鼓を打ち、幸せそうな顔をする航河君を見て、少し呆れてしまった。

“ちょっとくらい、気にして欲しいんだけどな……”

 驚くポイントが間違っている店長も、しれっとデートと言ってのける航河君も、ちょっと、いた、だいぶおかしいと思う。

「……ケーキ2個とか、食べ過ぎじゃない?」
「何で? こんなに美味しいの、遠慮したらお店とケーキに失礼でしょう」
「いや、えっ、だって、今日の夜クリスマス会兼忘年会だから、ケーキきっと出るよ?」
「それはそれで食べる」
「貴方のその太らない体質が羨ましいわ」

 私は目の前の苺のタルトをゆっくりと味わった。

「千景ちゃん、クリスマスプレゼント何にしたの?」
「私? 私はアイピローにしたよ。可愛い奴」
「えっ? めちゃ良いじゃん。それ俺に頂戴?」
「やだよ。クリスマス会用に買ったのに」
「俺も欲しい」
「当ててください」

 クリスマス会を兼ねているということで、1人1つずつクリスマスプレゼントを用意することになっていた。私は羊のアイピローを購入している。可愛らしいが実用的で、見た目に拘らなければ男性でも使える代物だ。

「航河君は何買ったの?」
「内緒」
「教えてくれても良いのに」
「当ててください」
「何その意地悪」
「別に。あーマジ旨い」

 そう言って、既に食べ終えたタルトのお皿を横に置いていたショートケーキと入れ替え、またモグモグと食べ始める。

「今日誰が来るんだろうね。聞いてる?」
「ううん、聞いてない。でも、シフト入ってる人は全員参加っぽいよ」
「そうなんだ。じゃあそこそこの人数になりそうだね」
「きっとね。とにかく俺は千景ちゃんのアイピローを当てる。最近目の疲れが酷いんだよね」
「人数多いと、確率下がりそうだけど」
「当たらなかったら俺が当たったのと交換してもらうもん」

 そんなにアイピローが気に入ったのか、中身も見ていないというのに。

 『そんなに気に入ったなら、買ってあげようか?』と言いかけて飲み込んだ。

“危ない、これが駄目なんだ”

 いつもの調子で甘やかしそうになるも、手前で留まった。離れることはまだ出来ないが、少しずつ方向を変えていくことなら出来るかもしれない。

「俺この店のケーキなら、何個でも食べられるかも」

 私の気持ちなんて知らない航河君は、口の端に生クリームを付けながら、ショートケーキを堪能していた。

“……これを可愛いと思ってしまうから、きっと私は末期よね……”

 私がタルトを食べ終える頃、航河君は2つ目のお皿を空っぽにしていた。