第52話:【回想】もしものお話④ (あの時、一番好きだった君に。)

スポンサーリンク

 今日のバイトへの足取りは重い。祐輔に見られないようにシフトを出さなければいけないことを忘れていた。
 あれから祐輔に、『その日は何もないと思ってバイト入れちゃってた、ごめんね』と送った。クリスマス会兼忘年会について聞かれたので、そちらは参加と答えておいた。
 心が痛んだが、もう決めてしまったことだ。今更変えることも出来ない。店の前で少しウロウロしたが、意を決してドアを開けた。

“どうか、どうか今日は祐輔バイト入っていませんように……”

「おはようございます!」
「……あ」
「あ。……おはよう、祐輔」
「おはようございます」

“なんてことだ”

 祐輔はいた。こんな時神様なんていないと思う。

 ニッコリと笑って、いつもの千景さんを演じる。正直、内心ドキドキしていた。私服ということは、今から帰りかもしれないと思ったが、時間も中途半端だし、ぼーっとしていたらそのままロッカーへと入って行った。

“平気平気。スッと出せば良いだけだもん”

 私は着替えを済ませ、エプロンのポケットにメモをしまった。レジの下の棚にシフト情報のファイルが入っていて、同じ棚の引き出しに皆シフトのメモを提出していた。そこに祐輔に見られずしまうことが出来れば、ミッションコンプリートである。

“あれ? ……なんで祐輔がレジに立ってるの?”

 キッチンの筈の祐輔が、何故かレジに立っていた。

「どうしたの? レジ打ち?」
「はい、今日はホールの人手が足りないみたいで。手伝って来いってオミさんにいられたんです」

“オミさんめ余計なことを……!”

 レジに立っていられては、引き出しにメモをしまうことが出来ない。

“いや、でも、ずっと立っている訳でもないし……”

 お会計が終わった後、伝票やレシートを整理し、空きテーブルとまだお客様がいるテーブルをチェックする。そのあと、外から入ってくるお客様が見えなければ、テーブルの片付けなり備品の整理なり、レジから離れる筈だ。それに、祐輔はキッチンの人間である。中から呼ばれることもあるかもしれない。

“大丈夫、絶対ワンチャンある!”

 気持ちを切り替え、いつも通り仕事をした。今日に限ってお店は混雑しており、夕飯時から飲み会帰り、ラスト間近になってもなかなか客足は途絶えない。

“嘘、もうこんな時間”

 未だメモはしまえていない。レジに祐輔がいるか、レジに祐輔がいない時、自分は片付けにテーブルを回っていたり、料理を出していたり。『よし!』と思ってレジに向かえば、そのままお客様のご案内になる。何ともツイていない。

“あー……今日はダメなのかな……でも、今日がシフト提出の締め切りだし”

 結局、全てのお客様が捌けて閉店の時間となるまで、引き出しに近付くことは出来なかった。少ない休憩の時間も、普段レジに行く用事もないので、中に引き籠ったままだった。
 仕方なく、店の奥からテーブルを拭いていき、入口へと徐々に向かっていく。

「あ、祐輔ー」
「はーい。オミさんなんですか?」
「こっち来て、掃除手伝ってくんない? 残りとレジ締めは、俺がやるから」
「分かりました!」

 そう言われた祐輔は、オミさんに従ってキッチンへと戻って行った。

“今がチャンス!”

 ここぞとばかりにレジへと向かい、急いでポケットからメモを取り出す。引き出しを開け、皆が既に出していたシフトのメモの何枚か下に、自分のシフトのメモを差し込んでさも結構前に提出したかのように小細工をし、引き出しを閉めた。

“あああ! 良かった……!”

 ほっと一息つく。無事に難題をクリアした達成感で胸が溢れた。

 これで、私は24日バイトになるだろう。彼女が仕事でデート出来ない航河君と、バイト前にケーキを食べに行き、そのまま仕事をするのだ。そしてバイトが終われば、皆と一緒にクリスマス会兼忘年会を行う。

 ──祐輔には、申し訳ないことをした。でも、もし、祐輔が私に好意を持っていて、その気持ちから私とクリスマスイブを過ごしたい、そう思っていたのならば。
 私も同じように、好きな人とクリスマスイブを過ごしたい、そう思ったのだ。本当なら、絶対に過ごすことが出来ない航河君と。