第51話:【回想】もしものお話③ (あの時、一番好きだった君に。)

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 2通目は思っていた内容と違っていた。1通目のように懸念点を挙げ、そこを突いてくるような、本当に心配しているように見える内容ではなかったのだ。

「あ、そう来たか」
「どうなったの?」
「『用事ならあるじゃん。当日俺バイト入れたんだよね。彼女仕事だし。千景ちゃんもバイトでしょ?』だってさ」
「え? 千景まだシフト出してないんでしょ?」
「出してないよ?」
「はぁ。『仕事を入れろ』ってことね……」
「……多分?」

 確かに、バイトを入れれば予定は出来る。それを理由に、祐輔からの誘いを断ることも。
 キッチンとホールのシフトは別で管理しているから、『元々入っていた』というのは簡単だ。しかも休日のクリスマスイブ。出勤する人は多くないだろう。勤務を取りやめるには、他の人を探さないといけない。見付けるのは恐らく難しく、祐輔もきっと、それを分かっているから簡単には『休んで』とは言ってこないだろう。

「なんだ。航河君結局千景のこと、祐輔君とデートさせたくないんじゃん」
「そう見える?」
「見える」

 キッパリ言い切った摩央は、2杯目のアイスカフェオレを頼んだ。此処のカフェは、2杯目以降同じドリンクに限り200円で提供してくれる。ドリンクバーとはいかないが、美味しいコーヒーなので嬉しいサービスだ。
 私もたまに頼むが、苦みの方が酸味より強く、コクがあって飲み易い。口に含んだ時の、鼻を抜けるコーヒーの香りにも嫌味がない。ガムシロップを入れずそのままいただきたい、白と黒のコントラストが綺麗なカフェオレである。

「これは困ったねぇ千景」
「うう……。予想外……」
「嘘だ。全然予想外じゃない癖に。ちょっと期待してたでしょ? 航河君が止めてくれるの」
「……バレた?」
「バレバレ」

 ──本当に、摩央はよくわかっている、私のことを。

 ただ、どう返信しようかは間違いなく悩んでいた。此処で祐輔の誘いを断るのは、一つの可能性、『自分にとっても祐輔にとってもの』を、潰すことになる気がしていた。いつまで経っても航河君に甘えていてもいけない。どの方向でも前に進まなければ。
 しかし、私は怖かった。メールを送ってしまったのだ。祐輔と出掛けることで、航河君との仲が悪くなってしまうことが、とても怖かった。好きな人と、今まで通り喋れなくなるかもしれないことが。

 だから、悩んでいた。

 ヴーヴヴ、ヴーヴヴ

「……ありゃ?」
「どうしたの?」
「航河君からまた来た。珍しい、返してないのに来るなんて」
「追い打ちたっだりして」
「怖いこと言わないでよ」

 摩央の言葉にドキッとする。心音が響いた気がしたが、落ち着いている振りをしてメールを開いた。

「……摩央はエスパーなの?」
「当たり?」
「『俺は夜からバイト。それまで暇なんだけど、あー、またあの時の美味しいケーキ食べたいなー』だって」
「誘うの下手かよ」
「いつもこんな感じだよ? 自分からは誘わない。……保険掛けてるみたいな?」
「……めんどくさー……」
「追い打ちでしょこれ」
「確かに……ふふっ、追い打ちだわ。……あはは。やだ、笑える。はは、あははっ……」

 どの辺りが摩央のツボにはまったのだろう。お腹を抱えて笑い出した。声は小さいものの、とても楽しそうである。

「……そんなに笑わないでよ。一応真面目にこれに返そうと考えてるんだから」
「いや、はっ……ふふふっ……決まってるんでしょ? こんなの貰ったら。……あーあ。狡いなぁ航河君は」

 ──分かっている。摩央の言う通り。こんなメールを貰ってしまっては、私の返信を遠巻きに決められたようなものなのだ。だって私は、航河君が好きだから。

「じゃあ仕事入れるよ。またあのカフェ行く?」

 そう打って、すぐに返事をした。

「摩央ってさ、見事に航河君の掌で転がされてるよね」
「もう……やめてよ」
「断わることってないの? 否定したりとか」
「殆どないと思う。だって、それで疎遠になったらやだもん」
「それならそれで、そこまでの関係でしょうよ」
「分かってるけどさ……」
「航河君を好きな気持ちはわかるけどさ。ちゃんと自分の意志で決めなきゃダメだよ。じゃないと、辛い思いをするのは千景なんだから」
「……うん」
「後悔のないように!」
「はぁい」
「……ねぇ千景、本当にこれで良かった?」
「今の私には分からないよ」

 そうだ。今の私にはわからない。これが正しい選択だったのか。

 私は手帳を取り出し、急いで予定を書いた。と同時に、12月後半のシフトをメモに書き出して手帳に挟んだ。今日のバイトの時に、このシフト予定を提出するために。