第49話:【回想】もしものお話① (あの時、一番好きだった君に。)

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 もう年の瀬にも近付いた頃、毎年やってくるクリスマスが、今年は今までと違っていた。

「摩央ー! 12月24日って、クリスマスイブだよね!?」
「え、あんたそんなことも確認しないと分からないなんて、一体どうしちゃったのよ」

 眉をひそめて摩央がこちらを見た。別に、実際分かっていないわけではない。ただ確認したかっただけだ。

「だよねぇ、クリスマスイブだよねぇ」
 私ははぁっと溜を吐き、講義室の机に突っ伏した。
「何かあったの?」
「んー。ちょっと、どうしようかなって」
「何が?」
「誘われたのよ、祐輔に。クリスマスイブ、一緒に出掛けないかって」
「えー! 良かったじゃん! デートデート!」
「いや、まぁ、そうなんだけどさぁ……」
「どうしてそんな微妙なお顔するのよ?」
「クリスマスイブに誘われるっていうのが……気軽に行けないというか……。行くのが怖いというか……」
「用事ないんでしょ?」
「……夜にバイト先のクリスマス会兼忘年会ある」
「それはそれで行けばいいんじゃないの?」
「そうなんだけどさぁ」

 歯切れ悪く答えるのにも、理由がある。どうも、祐輔は私のことが好きらしい。『らしい』というのは、私と祐輔が喋っているとニヤニヤしながら離れていくキッチンの人達の態度と、周りからの極端な祐輔推しが始まったからだ。
 祐輔はいい子だ。けれど、私が好きなのは航河君である。それは例え周りにそんな態度をとられたって変わらない。
 主に祐輔と同じキッチンの人達なのだが、ああも露骨に推されては、こちらも反応しづらい。
 いい子ではあるし、話し易い。ただ、私の恋愛対象としては違っていた。

「物は試しじゃん? もしかしたら、結婚を考えるほど好きな相手になるかもしれないし」
「でも、私航河君好きだし」
「そんなの知ってる。告白してもないし、航河君彼女いるでしょ?どうせクリスマスはデートでいないだろうし」
「それがね、彼女は24と25仕事なんだって」
「……不憫」
「仕方ないよねー、仕事って言われちゃうと」
「まぁ私は行ってみればいいと思うけど? 心配なら航河君に聞いてみたら? 『祐輔に誘われたんだけど』って」

 笑いながら摩央が言った。

「流石に、航河君も普通に返してくるでしょ。『行けば?』とか、『その後飲み会これば?』とか。『俺デート出来ないのに千景ちゃんばっかりずるい!』って言われるかもね」
 何となく『ずるい』は想像出来た。
 心の何処かで『祐輔と二人で出かけちゃダメ!』と言われることを期待しているのも事実だ。そんなこと言われてって、何も変わらないのに。

「ほれほれ、航河君に送ってみ? 摩央さんが隣で見ててあげるよ?」
「私で遊ばないでよ」

 そう言いつつ、私は航河君にメールを送った。結局は、すべて航河君に連絡を入れるのである。おかしな話だが、今の私にはこれが普通だった。麻痺してどうにかなっているのかもしれない。

「えーっと。祐輔からクリスマスイブ誘われた。何も予定ないし、行ってこようかな」
「ほんとに送るんだ」
「だって、後で『知らないんだけど』って言われるのもやなんだもん」
「え、そんなこと言うかなぁ?」
「言う言う。今までもそうだったから」

 後は返事を待ち、講義を受ける。
 周りから見て、私と航河君の関係はどれだけ歪なんだろう。ただの片思いが、ここまで相手に干渉することになるなんて。初めは思ってもみなかった。それだけ相手のことが好き、私にとって、そういうことである。

“私はそうだけど。航河君は一体どう思ってるんだろう”

 航河君の気持ちも考えも、航河君にしかわからない。幾ら考えても知りようもないことを考えるのは、現実逃避なのだろうか。
 時々本人に聞きたくなるのだ。『私が好きだと知っていて、そんな態度をとるのか』と。

 ──もし、知っていてこの状態ならば、航河君はなんて優しく残酷なんだろう。
 悲しいくらいに深い沼に溺れていく私を見て、その伸ばす手を引き上げようとはしないのに。更に深い沼へと、私を誘うのだから。