第45話:【現在】響く言葉② (あの時、一番好きだった君に。)

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 「桐谷君もカラオケ好きだって言うからさ。連れてきちゃった」

“きちゃった、じゃないよ村野さん……!”

 さっきひろ君に送ったメンツに、航河君は入っていない。

“送るか……。後で何かあっても嫌だし”

「航河君が来た。村野さんが連れてきた」

 とだけ、書いて送る。これは不可抗力だ。見えないところで連れてこられては、私にはどうすることも出来ない。

“2人きりじゃないから、セーフだよね。……多分”

 取り敢えず、6人で受付を済ませ部屋へと入る。私は1時間で帰ると伝えてあるが、皆は2時間いるらしい。後輩ちゃんと後輩君が気を利かせ、ドリンクを頼んでくれた。

「さてと。誰から歌う?」
「七原さんが1時間で帰っちゃうなら、七原さんからが良いんじゃない?」
「えーっ。私ですか? 一番嫌だなぁ」
「まぁまぁ、適当に」

 機械を手に取り、歌を探す。皆が知っていそうなドラマの曲を無難に入れた。すぐに曲が掛り、私はドリンクを一口飲んでから歌いだした。

「一人で歩く帰り道 満天の星空の下で君を思った さっきまで一緒にいたのに 離れた手がまだ……」

 これも好きな歌だ。男性ボーカルだが、高さが丁度良い。目の前では、村野さんと航河君が何か喋っていた。
「上手いよね、七原さん」
「相変わらずですね」
「そっか、航河君は、一緒にカラオケとか行ったりしたの?」
「よく行きましたよ、バイト帰りに」
「そうなんだ。良いねぇ、上手な歌いっぱい聞けて」
「そうですか?」
「俺らの年代の歌も歌ってくれるしね。聞いてて飽きないよ」
「まぁ、昔から懐メロみたいなの歌ってましたね」
「あと、恋愛ソングが上手いね。特に、失恋とか片思いの歌」
「あぁ……」
「それ七原さんが経験したの!? っていうくらい、感情乗せて歌ってくれてる」
「……そうですね」
「聞いてて切なくなるもんね」

 私には、2人の声は聞こえない。
 一人ずつ順に歌っていき、私が次の曲を探している時、村野さんにお願いをされた。

「へぇ七原さん。次、あれ歌ってよ」
「あれ? 曲名何ですか?」
「何だっけ、えーっと」
「誰が歌ってるとか」
「女の人!」
「いっぱいいすぎて分からないですよ」
「ホラ、あの、好きな人に彼女がいて、でも好きで、結局実らないみたいな歌」
「あ、分かりました。コレですね」

 村野さんが聞きたいだろう曲を、機械で探し転送する。そう、よく歌っていた、あの片思いの曲だ。

“まさか、この歌をまた航河君の前で歌うことになるとはね……”

 私は静かに自分の番を待つ。後輩君の番が終わり、私へと回ってきた。

「俺、この歌好きなんだよね。切ないけど、心に残る」

 村野さんがイントロを聞き、嬉しそうに言った。

「あはは、私も好きですよ」

 大きく深呼吸して、マイクを手に取る。歌おう。思い切り。私は別に、歌いたいから今日カラオケに来たのだ。……バラードは、カロリー消費が多い。腹式呼吸でお腹から声を出し、喉を開いて高音を出せば、二桁のカロリー消費は見込める。

「──君を見たあの日 世界が変わったんだ その声とその笑顔が 私の心を揺すったから こんなに近くにいるのに 思いは届かなくて……」

“……うん。歌える。大丈夫”

 静かに始まったこの歌をバックに、視界に入った村野さんが、また航河君に話しかけていた。

「サビが一番切なくて好きなんだよね」
「……悲しくないですか?」
「悲しいよ。でも、それが良い」
「そんなもんなんですかね」
「そんなもんなんだよ。片思いして、実らなかったことないの?」
「……ありますよ。一度だけ」

 一番音が高くて、一番感情が籠るサビに入る。昔はそう、この歌を歌いながら泣きそうになったことが、何度も何度もあったっけ。

「分かっていても 離れられないの 貴方から 何度背を向けようとしても 優しくて残酷な感情は 見えない鎖で 私を繋いだまま 優しくしないで 甘やかさないで 好きじゃないから そんなの要らない」