第44話:【現在】響く言葉① (あの時、一番好きだった君に。)

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 次に会社で会った時の航河君はご機嫌だった。皆に当たった旅行券の使い道を聞かれ、嬉しそうに幾つも案を出していた。一人旅なら、何泊か良いホテルや旅館に何泊かして、美味しい物を食べて移動費も賄えるだろう。何とも、羨ましい話である。

「桐谷君、彼女と行かないの?」
「彼女はいないですよ」
「勿体無いよなー、ほんと」
「暫くは自由人で行きます」
「海外行って、外国の女の子と付き合ってみるのはどう?」
「英語とかからっきしダメなんで、言葉の壁半端ないですね」
「そうかぁ。良い子いたら紹介してもいい?」
「是非!」

 あてがあるのだろうか、ニコニコと村野さんが航河君に話しかけていた。航河君も、ニコニコとした表情を崩さない。

“何で彼女いないんだろうなぁ”

 ポロっと、誕生日の日に航河君が漏らしていた。『美織ちゃんと別れてから、一度だけ他の女の子と付き合った。だけど、上手くいかなくてすぐに別れた』と。
 私が昔に聞いていた話は、航河君は美織さんと結婚するつもりでいて、美織さんと別れた時、『もし次に付き合う子がいたら、結婚する』といった内容だった。
 『美織ちゃんのこと好き過ぎて結婚したら外に出したくない。俺が全部するから、家から出ないで欲しい』なんて言っていたっけ。当時はふーんと適当に聞き流していたが、今でいうとヤンデレという奴なのだろう。ちょっと怖い。が、それだけ愛されていた美織さんが、当時の私はとても羨ましかった。

 ──昔の話だが、こんなにもハッキリと覚えている。それだけ自分の興味が航河君に向いていたのだ。

“好きだったなあ、あの曲。いつも歌っていたっけ”

 当時、ハマりにハマってずっと聞いていた歌がある。女性ボーカルで、”片思いの男性には大好きな彼女がいて、それでも私は貴方のことが好き”という歌だ。
 共感以外何ものでもなく、カラオケでもよく歌っていた。航河君の前でも、平気で。勿論、告白する前の話だが。

「七原さん、今日、カラオケ行かない?」

 村野さんの問いかけにハッとする。

「今日ですか?」
「うん、今日。一時間くらい。他のメンツも誘って」
「聞いてみます」

 村野さんの言うメンツは、大体総務のカラオケ好きなお姉さんと、同じプロジェクトの後輩君と後輩ちゃんである。好きな曲が似ていて、何でも気兼ねなく歌えるので、誘われる時は殆どこの形だ。

 ひろ君にkiccaを送る。夏乃のお迎えもある、早い方が良い。

『良いよ、行っておいで』
「有り難う」
『あ、明日は俺忘年会だから。ご飯要らないよ、忘れないでね』
「はいはーい。今日、夏乃のお迎え宜しくね。一応、カラオケ一時間の予定だって。村野さんだから、いつものメンツの筈」
『村野さんなら、お姉さんと後輩達? 好きな歌歌えるね』
「うん。遠慮しないで良いから有り難い」
『まぁ、お早いお帰りを』
「了解」

 私は懐メロが好きなのだが、周りがわからないからあまり歌わない。マイナーな曲も好きだが、これも同じくだ。その点、このメンツだと誰かが知っていて、その人も何かしら似たようなものを歌うから、気にしなくて良い。

「村野さん、オーケーです」
「了解。仕事、ちゃちゃっと終わらせちゃおう」
「そうですね」

 カラオケはストレス発散に良い。大きな声をお腹から出して、情緒たっぷりに歌い上げる。楽しいし、スッキリする。カロリーも消費できるし、いいことづくめだ。
 集中した村野さんは凄い。普段仕事をしてない訳じゃないが、適当に手抜きをして、その日一日の仕事を終わらせている。でも、今日みたいな日は違うのだ。
 こういう日に限って、後から追加の作業が出来たり、お客さんから連絡が来て、仕事が増えたりする。それを先回りして終わらせていき、最終的に余剰を作っておくのだから。
 毎日これなら早く帰れるのにと思うが、毎日これだとめちゃめちゃ疲れる上、更に仕事が降ってくるらしい。だから、たまにしかやらない。
 そんな村野さんにつられ、自然と私の仕事のスピードも上がる。

 ──キーンコーンカーンコーン

「あー、終わった!」
「お疲れ様。この資料だけ上に出してくるから、松野と苗村連れて、先行っててくれる? あ、総務はちょっと覗いてみる」
「分かりました。先行ってますね」

 3人で部屋を出て、カラオケへと向かう。

“一応、ひろ君に連絡入れとこうかな”

「今会社出たところ。やっぱり、お姉さんと後輩君後輩ちゃんだったよ」
『はいはい。俺も今出たから、夏乃迎えに行ってるね』「宜しく」

 店の前で待っていると、お姉さんが見えた。

「お疲れ様です!」
「七原さんお疲れ様。今日はいつものメンツにプラスなのね」
「え? そうなんですか?」
「ええ。総務に来た村野さんが、男の子連れてたわよ」「誰だろう、聞いてなかったけど……」

 その5分後、村野さんがやってきた。

“……もう一人って……まさか”

 後ろには航河君がいた。