第43話:【現在】忘年会② (あの時、一番好きだった君に。)

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 「あー、美味しかった!」
「なつのもうたべられないよぉ」
「ビンゴは商品券3万円分とタブレット、今年もまた安眠枕って、なかなかの戦果じゃない?」
「そうねぇ。安眠枕、去年の取り出して使う? なんかちょうど、2人分だし」
「そうだね、使うか」
「なつのタブレットでゲームしたい!」
「少しだけよ?」
「わーい!」

 我が家は3人とも景品をゲットした。外れはなかったのだ。
 そして、目玉の旅行券10万円分は、航河君の手に渡った。

“本当に引きが強いよね、あの子”

 目玉は当たらなかったが、それでも全員が景品を貰い、美味しいご飯を食べ、楽しく過ごすことが出来た。毎月給料から引かれていた分の、元は取れたと思う。

 帰る時間も遅かったため、お風呂に入り歯を磨いた夏乃は、あっという間に眠りについた。私は2人分のお茶を汲んで、ひろ君の座っているダイニングテーブルへと置いた。

「疲れてたんだね」
「気疲れもあったかもな」
「そうかもね、普段あんなに人がいるところも行かないし」
「……千景」
「? 何?」
「桐谷、って言ってたよな、今日いた人」
「航河君? うん」
「千景の元カレ?」
「えええ!? 違うよ!?」
「そっか。いや、なんか、凄い今日楽しそうだったし、ずっと昔の話とかしてたから。そうなのかなって」
「違うよ。航河君彼女いたもん。友達」
「……本当に?」

 珍しくひろ君が強めに聞いてくる。普段、こんなに念を押すように聞いてくることはない、私の交友関係で。いつもは”私に興味がないのかしら?”と思うくらいに、その辺は無関心なのに。
 
「本当に。……でも、そうだね。嘘は吐きたくないから言うけど」
「……うん」
「昔ね、航河君のこと好きだった」
「……」
「あ、けど、振られましたよ? 当時の私は。それはもう見事に」
「……そっか」
「だから、何もないよ」
「分かった。ごめん、変なこと聞いて」
「ううん。元カレに見えた?」
「元カレっていうか、特別に見えた」
「昔、仲が良かったのは認める。私が好きなのはひろ君しかいません!」

 そう言い切ると、何も言わずにひろ君が席を立った。

“うう……怒ったかな……”

「ごめん」

 ひろ君はもう一度謝って、私を抱きしめた。

「え? ええ? どうしたの?」

 強い力。少し痛い。

「……ごめん」
「謝らないでよ。多分、私の態度が誤解させたとか、心配させちゃったんだよね。私こそ、ごめんね」

 両腕で抱き締め返す。ひろ君から伝わる熱と、緩んだ抱きしめられる感覚が心地好い。

「正直、ヤキモチ妬いたんだと思う」
「ひろ君が?」
「今日喋ってるのを見てこの間のご飯行かせなきゃよかったと思ったし、今日も席譲らなければ良かったと思った」
「……それは驚いた」
「千景も凄い笑顔だし、もしかして俺と喋るよりも楽しいんじゃないかって」
「……ごめんひろ君。嫌な思いさせて」
「ううん。俺の方こそ」
「ひろ君がヤキモチ妬くなんて思ってなかった」
「……俺も思ってなかった」

 クスリと笑いあって、キスをした。そのまま、布団へと向かう。

「今日も凄い寝相ですね夏乃さん」

 何処かで見たことのある、拳法の使い手みたいなポーズでど真ん中に斜めで寝ていた夏乃を、今日だけは一番外側に移動させて、隣に私、ひろ君の順で寝転んだ。

「うわー……あー……」
「どうしたの?」

 独りごとを言いながら、ひろ君が枕にボスボスと顔面でアタックを掛けている。

「……これがヤキモチかー……あー……」
「衝撃?」
「衝撃」
「いい経験ね」
「……もしかして、千景もこんな気持ちだったの? 俺が会社の子とご飯行く時」
「やっと理解頂けたようで何よりです」
「……ごめん。すげー悪いことしてた」

 ひろ君はよく女子社員から仕事の相談事を受けていた。立場的にも人柄的にも、話しかけ易かったのだと思う。その度に仕事帰りご飯を食べて帰ってきていた。『何も気にすることなんかないのに』と。
 しかも、仕事の相談の筈なのに、彼氏がどうのとか、休みの日がどうのとか、仕事には関係のないことも多かったそうだ。

 お互い、『身内または両方の知り合い以外の異性とは、2人きりで出かけない方が精神上良い』という結論に達し、私に限っては『航河君と2人はとにかく禁止』と約束をして手を繋いで眠りについた。