第34話:【回想】クマのキーホルダー③ (あの時、一番好きだった君に。)

スポンサーリンク

 ”え……嘘……。航河君も同じ物持ってたの……?”

 想定していなかった事態に、頭が混乱する。同じ物ということは、私と航河君はお揃いの物を持っているということだ。こんな可愛いものを、航河君も自分用に買っているなんて、全く想像もつかなかった。

「流石に、男友達の前で買うのは恥ずかしかったから、こっそり買ったんだよね、あはは」
「女の向けっぽいデザインですもんね。可愛いですよね? 千景さん」
「……」
「千景さん?」
「えっ? あ、うん! 可愛いね、そのクマ」

 ……言えない。まさか、同じクマの色違い、イニシャル違いを持っているなんて。しかも、貰った相手が航河君だなんて。
 だからか。これだから、航河君は私に貰ったことを口止めしたのだろう。バレてしまわぬように。

「もしかして、お揃いですか?」

“そんなこと聞くなよぉ祐輔!”

「これ? 彼女とお揃い」
「……へ?」

 思わず間抜けな声を発した。

「彼女さんとお揃いなんすか?」
「そうだよー、美織ちゃんはレモン色。イニシャルに【M】って入ってるの」
「お揃い良いですね」
「お前も彼女作ったら? お揃い出来るぞ?」
「あー、まー……そうですよね」

 ポリポリと頭を掻いて、祐輔はまたオムライスをむしゃむしゃと食べ始めた。

“私は桜色でCだもん。……作り話じゃ、ない、よね?”

 咀嚼するスピードが落ちる。大好きな海鮮で、とても美味しい筈なのに、一気に味がしなくなった。
 心音が早くなり、耳元がカッと熱くなる。少し手が震えたがとにかく料理を箸で掴んでは口に運び、もそもそと口を動かした。

“3人でお揃いとか……冗談でしょう?”

 もしかしたら、航河君の作り話かもしれない。誰かとお揃いなんて痛い所を突かれて、彼女なら違和感がないだろうからと、咄嗟に吐いた、嘘。
 内容はリアルだが、自分のクマと、私のクマから想定して作るには容易い。

「あ……私ちょっと、散歩に行ってくる」
「もう食べ終わったの?」
「うん、この間近所に出来た雑貨屋さん、見に行ってみたかったんだよね。5分前には遅くとも戻るから。いってきます」

 『いってらっしゃい』という祐輔と航河君の返事も聞かずに、食べ終わった食器をそそくさと片付け、ロッカーから財布を取り出し店を出た。別に雑貨屋さんにどうしても行きたい訳ではなかったが、その場を去る上手い言い訳が見つからなかったのだ。

“何で? 何で私と航河君と美織さんの3人でお揃いなの?”

 自分と彼女と自分の女友達とで、お揃いのアイテムを買う人が存在するなんて思ってもいなかった。その3人でお揃いにする意味が分からない。ダブルデートで結果皆でお揃いのものを買ったとか、そういうのであれば分かる。
 あとは、好きな人と同じものを欲しくて、お揃いを買うとか。

“やばい、ほんとに混乱してきた”

 有言実行で、雑貨屋へと足を運ぶ。此処のお店は、可愛い雑貨が揃っていた。荒んだ私の心を癒してくれる。
「あ、このクマかわい……いあぁクマ……」

 不覚にも、水彩タッチのクマが描かれたノートを手に取ってしまった。好きなんだ、クマは。

“クマに罪はない……クマに罪はないんだ……”

 手に取ったノートを棚に戻す。
 きちんと私の好みを分かって買ってきているところが憎らしい。

「あーあ……。喜んで損したのか、別に気にしなくていいのか……。全っ然分かんない」

 嘘なら気にしなくて良い、寧ろ私が彼女の設定だなんて、だし、嘘じゃなかったらなんでこの3人でお揃いなんだと小一時間問い詰めたい気分だ。
 でも、わかる。相手はあの航河君だ。もし、本当に3人でお揃いだったとしても、『そこに特に意味はない』だろう。

“あー、もー。……何か買って戻ろ”

 クマはやめて、枕に埋もれるハリネズミのアクリルストラップを買うことにした。動物は大体可愛く見える。それにこのハリネズミ、全くやる気のない表情が堪らない。添えられた『働きたくないでござる』の一文にもセンスが伺える。

“このシリーズ、リピートしよ”

 他にも種類は沢山有った。また買いに来ることを誓って、店を後にし職場へと戻った。