第31話:【現在】その手にある物 (あの時、一番好きだった君に。)

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 「千景ちゃん、お土産は?」
「え? 何の?」
「旅行のお土産。温泉行ってきたんでしょう?」
「配ったじゃん、クッキー」
「特別に俺だけには?」
「ない」
「がーん」

 特別なものは無い。皆平等に同じものを配るだけ。

「昔は買ってきてくれたのに……」
「昔は昔、今は今」
「千景ちゃん冷たくなった」
「大丈夫、元々だよ」

 ニッコリ笑って返してみたが、不貞腐れた顔をしている。そんな顔をしたって、無いものは無いのだ。頼まれた訳でもないし、特別に買ってこようなんて微塵も思っていなかった。──昔なら、話は別だが。

 ──冷たくなったことは、少しだけ認める。摩央に『航河君に甘い』と言われていたし、誕生日の時と花火大会の日に言われた言葉が、まだ胸の奥で引っかかっていた。杞憂ならそれで良い。だが、杞憂ではなかったら。そんなことばかり考えているから、態度に出てしまうのだ。気を付けなければ。

「お土産ねぇ……」

 昔、航河君にお土産を貰ったことがあったっけ。しおりと絵はがきのセットを貰った時は、しおりは使い、絵はがきは飾っていた。
 ……引っ越しと同時に、しまい込んだが。綺麗な絵はがきは、写真ではなく水彩画で描かれていた。優しく淡いタッチが、見ていると心を穏やかにしてくれる。とても素敵な絵はがきだった。
 しおりも、よく文庫を読む私は持ち歩き使っていた。こちらはプラスチック素材なのか、透明の素材に写真が印刷されていた。加工してあり、桜と夜空、ビルと夜空など、美しいデザインだった。……お気に入りだった。

 何の気なしに、でも、心の何処かで『買ってきてくれたら良いな』と思って発した言葉を、航河君は受け入れて期待に応えてくれた。コッソリとバイトの帰り道に渡してくれた時は、とても嬉しかったのを覚えている。顔にはそこまで出さなかったつもりだが、出ていたかもしれない。

 私が買って行ったこともあった。旅行ではなく、有名な劇団の舞台を見に行った時だ。祖母に連れられて行った、久々のミュージカル。有名なだけあり、舞台に合わせて物販もあった。『行くなら何か買ってきて』とお願いされて、キーホルダーを買って行ったっけ。
 流石に、『俺もミュージカル行きたい』は断った。冗談だったかもしれないが。祖母と私の分しかない。キーホルダーは気に入ってくれたらしく、鞄につけていた。少し変わったホログラム仕様で、残り一つだったから急いで手に取った。

 ──今日の仕事は、あまり捗らない。考え事ばかりしていたから。早々に切り上げて帰宅する。

 今日はひろ君の帰りが遅い。夏乃と食事を済まし、お風呂に入れて早めに寝かせた。最近、眠るのが遅くなっている。朝に支障をきたすから、また早く寝るようにしなければ。

 それに、明日はゴミの日だ。ダンボールに溜めていた、不用品を捨てようと思っていたのだ。早めに片付けをしないといけない。

「えーっと。これは私の奴だから……」

 クローゼットから引っ越し用のダンボールを取り出して、ガムテープを剥がした。

「これは要らない、これは要る。これは……何だっけ?」

 中身を取り出し、要らない物はゴミ袋へと捨てていく。

「何で捨てなかったんだろ。このレジュメも要らないし、こっちのノートも要らない。わっ、このキーホルダー、壊れてるじゃん。使えないのに、なん……で……え?  ……あ……」

 摘むようにダンボールから取り出したのは、ピンクのクマのついたキーホルダーだった。

「……まだ、残ってたんだ。捨てたと思ってたのに」

 忘れもしない。このキーホルダーは、一番最初に航河君から貰ったお土産だ。自宅の鍵にずっと付けていた、お気に入りの。キーリングの部分が外れて、付けられなくなったから、捨てたと思っていたのに。

「捨てたくなかった、ってことね。……そうね、分かってる」