第29話:【回想】Happybirthday① (あの時、一番好きだった君に。)

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 『もしもし? 千景さん?』
「もしもし。イキナリどうしたの?」
『今日暇だよね?』
「は? 今日? 今日って、もう17時も過ぎたけど」
『暇だよね?』
「……何で?」
『俺今日誕生日なの』
「……知ってる。おめでとうって、メールしたじゃん」
『彼女が仕事なの』
「……」
『だから独りなの。祝って。ね?』
「……はぁ。今から? 帰り遅くなるの嫌だよ?」
『うん、えっと、シャワー浴びてから行くから、ちょっとかかる』
「……準備まだなのね」
『かっこいい俺の方が、千景さんも良いでしょ?』
「そんなんどっちでも良いから、早く準備してください」
『はぁい』

“そのままでもカッコイイっていうのに”

 自分が良いと思うものと、相手が良いと思うものが、必ずしも一致するとは限らない。私は準備完了の連絡を待ち、家を出た。

「千景さん、お待たせ」
「はいはい、待ちましたよ、と」
「ゴメンね、まぁでも、かっこいい俺に免じて許して?」
「ちょっと何言ってるかわかんないから行くよ」
「あ、待ってよー」

 店の予約はしてくれたらしい。通されたのは個室だった。

「彼女さん、仕事なんだね」
「そうなの。前々から言ってあった筈なんだけどなぁ」
「よっぽど大事な日だったんじゃない? 重役が来るとか」
「俺は悲しいよ」
「埋め合わせ、してくれるんでしょう?」
「多分。約束はした」
「まぁ、今日は飲みなよ」

 今日が誕生日だから、お酒も解禁である。尤も、解禁する前から飲んでいたが。

「俺やっぱ梅酒好き」
「私はカシオレかな、梅も好きだけど。柚子も美味しいね」
「分かる! 甘酸っぱくて、それでいてさっぱりしてる!」
「そうそう。飲み易くて良いよね」
「ねー」

 航河君とは、話が合う方だと思う。これだけよく喋る男友達も珍しい。出逢ってからそんなに経っていないが、月並みな言葉だが昔から知っている友人のようだった。
 鶏の軟骨をつまみながら、バイトのこと、学校のこと、友達のこと、色々話した。
 最近はまっているゲームや漫画、好きな歌の話も。
 お互い程よく酔いが回った頃に気付いた。笑うタイミング、話しかけるタイミング、突っ込むタイミング、驚くほど自然で違和感がない。いつしか航河君と喋ることが、途轍もなく心地好い瞬間となっていた。

「あー、そういえば千景ちゃん」
「んん? ちゃん?」
「あ、ごめ……まぁいっかぁ。千景ちゃん」
「ちゃん付けになってるからびっくりした」
「仕事の時はさんって呼ぶよ。普段は良いよねぇ。直人も千景ちゃんって呼んでるし」
「直人はすぐちゃん付けだったもん」
「アイツは馴れ馴れしい」
「広絵は? 広絵ちゃんって呼ばないの?」
「広絵さんをちゃんで呼ぶのは勇気いるわ。千景ちゃんは、ちゃんって感じする」
「なんだそれは。一応年上なんですけど?」
「数ヶ月しか変わんないじゃんー」
「そうなんだけどさぁ」

 段々とアルコールを頼むスピードが上がっていく。

「そういえばさ、なんで私なの?」
「何が?」
「今日誘ったの。直人とかいるし、皆誘っても良かったんじゃない?」
「んー。千景ちゃんが、1番喋ってて楽しいもん。気楽だしさ。くだらない話にも、付き合ってくれるし」
「彼女さん──美織さんは知ってるの?」
「うん。ちゃんと言ってきた。『千景ちゃんとご飯行ってくる』って言ったら、『あぁ、千景ちゃんね』って」
「私のこと知ってるの?」
「最近よく話すの。仲良いよって」
「怒られん?」
「何で? 全然」
「はぁ……」
「あ、そういえば、この間見に行ったパズル、買った!」
「マジで? 進んでる?」
「うん! 結構似たピース多くて、難しいかも」
「色分けと外枠しても、ピース多いと辛いよね」

“あぁ──楽しい──”

 気付くと、もう2時間は経過していた。一緒にいる時間は、こんなに早く感じるのだ。私はグラスに残ったカシスオレンジを飲み干して、次の一杯を頼んだ。