第27話:【現在】2人がダメなら3人で④ (あの時、一番好きだった君に。)

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 「ねぇ、航河君と何かあったの?」
「何もないよ? 何で?」
「航河君、千景の話題、意図的に避けてるよね?」
「えっ? そんなまさか。いや、まぁ、摩央の話をやたら聞くな、とは思ってたけど」
「それだよ、千景の話にならないようにしてる」
「嘘、気のせいじゃなくて?」
「気のせいじゃないよ。千景の話しても聞いてない振りして、話題変えてる」
「なんでそんなこと……」
「分かんない。でも、気を付けた方が良いかも」
「どうして?」
「話逸らすってことは、聞きたくないってことでしょう? 今の千景、今までの千景の話を。それに、思い出したから。元カノ、『略奪愛』だったよね?」
「あ……」

 驚いた。摩央も、同じことを考えていたなんて。その対象が、私であるということも含めて。信じられない

「千景にその気がなくても、気を付けるに越したことはないよ」
「わ、わかった……」

 想定外の言葉を掛けられた。鈍器で頭でも殴られた気分だ。全くそんなこと予想していなかった。てっきり、摩央を誘ったのは、摩央に会いたかったからじゃないかとか、もし何か言ったら、摩央を守らなければ、とか、そんなことを考えていた。

「千景は……千景は、今はひろ君一筋で家庭があっても、昔航河君を好きだったことを、なくすことは出来ないんだから。そもそも、『航河君を好きだった千景』で、、航河君の中の千景の姿は止まっているのかもしれない」

 この言葉を思い出した。『女はフォルダを上書き保存し、男はフォルダを分けて保存する。』だ。そんなこともないのではと思っていたが、摩央の言葉を聞いたら、何だかそんな気持ちになってきた。

 私はひろ君が好きだ。愛している。……それと同じように、大学生だったあの頃、私は航河君が好きだった。愛していた。それは否定しないし、間違いでもない。連絡が途絶えてから、まさか再会するなんて予想もしていなかったし、人を交えてとはいえ、また食事に行くとも思っていなかったのだ。
 それに関して、多少、心が揺さぶられたことは認める。懐かしいあの頃が鮮明に蘇り、昔に戻った気分になった。当時の自分を振り返って恥ずかしくなったり、何とも言えない、心をくすぐられる感覚に襲われたり。

 甘酸っぱいとは、このことを言うのだろうか。くすぐったくて、切なくて。その言葉、その仕草に、一喜一憂した、あの頃。告白を後悔したこともあったが、結果として、ひろ君と結婚し、子供を生むことが出来た。だから、航河君に未練はないし、今更例え迫られたところで、なびくこともない。
 それだけは、はっきりと言える。なんなら、跪いて神にでも誓おう。

「何かあったら、すぐに言って。あと、連絡とれるなら、直人でもいいと思う。フットワーク軽いし。それに……」
「それに?」
「直人が変わってないなら、『女性を泣かす奴は許さない』でしょ?」
「自分は何人も女泣かせてきたのにね」
「自分のことには疎いものよ」
「……待って? 私泣く前提なの?」
「た、例え話よ、例え話!」

 慌てて切り返す摩央が可愛らしい。彼女は、本気で私のことを心配してくれているのだ。

「トイレすげぇ混んでた。お待たせ」
「お帰り。私も行ってこようかな」
「行ってらっしゃい」

 入れ替わりで席を立つ。

 ──私が席を外した時、航河君は私のことを聞いてきたらしい。

「ねぇ、摩央さん、千景ちゃんって、家庭の悩みとかないんですか?」
「悩み? 何で?」
「いや、なんとなく。……あの、そうだ。自分の周りの既婚者って、結構悩み抱えてたり、その、喧嘩したりする人が多くて」
「ふーん……」
「……ホラ、千景ちゃん、結構溜め込むタイプじゃないですか? だから、心配で」
「優しいのね、航河君」
「……いや、そんなことは……」
「大丈夫よ。だって、千景には、大好きな尚宏さんと、大好きな夏乃ちゃんがいるんだもの」
「あ……」
「千景は尚宏さんに隠し事したりしないし、何かあってもちゃんと報告するの。仲も良いし、そんな簡単に壊れたりする家庭じゃないわ」
「……それなら良かった」
「見てるこっちが恥ずかしくなるくらいだからね。心配する必要はないわ」
「そう、ですか」

 翌朝、摩央から聞くことになったその話は、私に何とも言えない感覚をもたらす。
 『絶対に2人では会うな』と釘を刺され、私はあの直人に送ってもらった写真を眺めながら、首を振って息を吐いた。