第26話:【現在】2人がダメなら3人で③ (あの時、一番好きだった君に。)

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 食事が進む。初めはどんな話をしようか、会話に困らないか、と考えていたが、大学を卒業してからのこと、就職先のこと、環境の変化、今の仕事の話、摩央の結婚式について等、話題には事欠かなかった。心配は要らなかった。まるで、あの頃に戻ったかのように、会話が途切れることはなかったのだから。
 あっという間に、手元のウーロン茶は4杯目である。

「でもさー、千景があんなに早く結婚するなんて思わなかった」
「そう? 子どもは早く欲しかったよ?」
「うん、それは知ってるけどさ」
「付き合ってる期間、短かったかなぁ」
「1年でしょ? 今時珍しくもないけどねぇ。芸能人なんかで、出会って数時間で結婚、みたいな人もいるでしょ?」
「そうだけども。確かに、期間的に早い、って意味で、早いっていう人はいたな」
「なんだろ、もっと、20台後半とか、30代で結婚すると思ってた。航河君もそう思わない?」
「……え?」
「聞いてなかった? もしかして」
「あ、すみません。何でしたっけ?」
「千景の結婚! 子どもも早かったし、あーうちも子ども早く欲しい!」

 摩央は子ども好きだ。だが、なかなか恵まれないらしい。本人は『そのうち出来るよー』なんてのほほんと言っているが、摩央も摩央の旦那さんも一人っ子だ。きっと、両家からのプレッシャーもあるだろう。本人は笑っているが、何か辛いことが無いか、心配事はないかと勘繰ってしまう。

「摩央さんは、今の旦那さんとそういえば何処で出会ったんですか? 職場?」
「ううん、SNSのオフ会」
「嘘! 意外!」
「オフ会はよく行ってたよー。付き合うのも何度かあった」
「へぇ、そういうこともあるんですね。辞めるまで、仕事は何してたんですか?」
「出版社にいたよ。といっても、やってたのは事務仕事だけど」
「そこにはイイ人いなかったんですか?」
「素敵な先輩がいたけどね。振られた」
「切ない」
「でしょ?」
「でも、今の旦那さんと出会えたから、良いんじゃないですか?」
「ほんとそれ。寧ろ振られてよかった」

 一瞬、ピクンと航河君が反応した。

「どうかした?」
「ううん、なんでもない」
「航河君は、今彼女いないんだっけ?」
「いないですよ。絶賛募集中です」
「千景、紹介してあげたら?」
「直人にも言われたけどさ、いないもん、そんな子」
「直人! 懐かしい!」
「この間会ったけど、元気そうだったよ。相変わらずイケメンだった」
「直人、超イケメンだったもんね」
「摩央さんの友達に、良い子いないですか?」
「いい子ねぇ、皆売れちゃったわ」
「……ですよねー」

 残念そうな空気を醸し出していたが、実際その顔は残念そうではなかった。

“元々期待はしてなかったのかな?”

 それにしても、航河君はやたらと摩央に質問したり、話を聞こうとしたりしている。

“……もしかして、摩央のこと狙ってる?”

 いやはやまさか。摩央が既婚者であることは、今日の話の中でよく分かった筈だ。生活に不満もなく、つけ入る隙がないことも。ならば、どうして。私の勘違いだろうか。

 ふと、嫌な感覚が胸に湧き上がってきた。

“……航河君、美織さんの時って、略奪愛じゃなかったっけ”

 確か、航河君と付き合う前、美織さんには彼氏がいた。そして、航河君は美織さんに猛アタックし、つきあうまでこぎつけた。それは、航河君本人が話していたことだ。実際、略奪だったのか、何がそういう結果となったのかはわからないが、その言葉は鮮明に覚えている。

“まさか、ね”

「俺、ちょっとトイレ行ってきます」
「はいはい、いってらっしゃい」

 航河君が席を立ってすぐ、摩央が真剣な顔でこちらを向いた。