第25話:【現在】2人がダメなら3人で② (あの時、一番好きだった君に。)

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 ”ついにこの日が来てしまった……”

 航河君に『祝ってほしい』と言われたのが先月のこと、その当日まであっという間である。正直、めんどくさい。はっきりと断れなかったのがいけないのだが。

“不思議ね。昔はあんなに航河君と会えることが楽しみだったのに。それを面倒と思うようになるなんて”

 結婚して、子どもも産めば、考え方や感覚の一つや二つ変わるだろう。店の前に一番乗りした私は、ぼんやりと考え事をしていた。

「千景―!」
「摩央! ごめんね、変なお願いしちゃって……」
「いいよぉ。気にしないで。私も航河君に会いたかったし」
「変なの。何で会いたかったの?」
「特に理由はないよ。あの航河君が、どんな大人になったか、ちょっと興味を持っただけ」
「全然変わってないよ、面白いくらいに」
「それはそれで見ものだわ」

 摩央に会うのもそこそこ久し振りだ。去年、摩央は結婚した。その結婚式以来である。華奢な摩央の身体に、マーメイドドレスがとてもよく似合い、女の自分もそれはそれは見惚れるほどの美しさだった。お色直しで着たワインレッドのベルベット地のドレスも、大変綺麗で細やかな金色と銀色の刺繍が施されており、色白な摩央の肌によく映えたのを覚えている。

 私も摩央も、会う回数はめっきり減っていた。大学時代はそれこそバイトのない日やバイトまでの時間、一緒にカフェでお茶をしたり、カラオケに行ったりしていた。テスト期間は大学内でノートやレジュメを見せ合ったり、レポートに内容について話し合ったりもしたのに。 社会人になって、お互い忙しくなり、私が結婚し子どもを生んでからは、電話やメールの回数も随分少なくなった。摩央も仕事が不定休に近く、暇がないと聞いていたので、お互いに遠慮していたのかもしれない。

 そんな摩央と久し振りに会うことが出来た。その点は、航河君に感謝せざるを得ない。

「あ、やべ、俺が最後?」
「お疲れ航河君」
「おっ、航河君久し振り―。……ほんとに変わらないね」
「お疲れ千景ちゃん。お久し振りです摩央さん。いやいや、摩央さんこそ、全然変わってないじゃあないですか」
「そんなことないよー。仕事に疲れて大分老けたさ」
「気のせいですよ。そんなの。さ、入りましょう」

 航河君に促され、私達は店へと入った。

 最初のドリンクを頼み、コースの一品目が出てくるのを待つ。

「摩央さん、今何してるんですか?」
「先月から専業主婦中」
「そうなんです? 結婚おめでとうございます」
「ありがと」
「専業主婦でも平気な給料って、旦那さん凄いですね」「んー、まぁ、家の土地は実家の持ち物だし、そこに旦那の家に出してもらって、今の家建てたからさ。1人分でもいける感じ」
「えー、うらやまですよ摩央さん」
「私もうらやまー」

 摩央は所謂お嬢様だ。実際、家が何をしているかを聞いたことはないが、不自由はしていない。大学時代も親の所有しているマンションに独り暮らしをしていたし、入学祝には車を貰い、卒業祝いには1か月のヨーロッパ旅行をプレゼントされていた。摩央の旦那さんもお坊ちゃんで、どちらの実家が摩央達の家を購入するかで揉めたらしい。勿論、どちらも払うと譲らなかったからだ。だから、聞いた話だけではあるが、摩央が旦那さんの収入のみでやっていけることは分かっていた。

 仕事をするのは嫌いではないし、今の生活に不満はないが、実際その財力が羨ましい。本気で宝くじの一等前後賞でも当たらないかと考えている。そして、当たってもいないのに、捕らぬ狸の皮算用で当選金額を何に使うか考えている瞬間が、一番楽しいのだ。

“宝くじ当たったら、マジで家買おう。そうしよう”

 航河君も興味を持った、というか、純粋に気になるのだろう。摩央に根掘り葉掘り聞き始めた。多少遠慮はしているだろうが。
 摩央はあっけらかんとして、誤魔化すことも、言い淀むこともなく、スラスラと聞かれたことに回答をしていった。こういう、嫌味のないところが、摩央の魅力でもある。

「待たせ致しました、ウーロン茶2つと、梅酒ロックです」
「梅酒はこっちで、ウーロン茶は前の2人です」
「失礼します。枝豆、こちらに置きますね」

 ドリンクと、枝豆が運ばれてきた。

「それじゃあ……航河君、お誕生日おめでとう」
「おめでとう!」
「あざっす!」
「航河君の誕生日を祝して、乾杯!」
「「乾杯!」」

 カチン、というグラスのぶつかる音を合図に、食事がスタートした。