第24話:【現在】2人がダメなら3人で① (あの時、一番好きだった君に。)

スポンサーリンク

 「という訳で、祝ってください」
「意味が分かりません」

 目の前に、顔の前で両手を合わせて、頭を下げる航河君がいる。花火大会も終わり、残暑が過ぎて日の入りも少しばかり早くなった頃、思いもよらないお願いを受けた。

「良いじゃん! 独りやなんだもん。誕生日祝ってよ! 一緒にご飯食べに行ってよ!」
「だから、何で私が……」

 はぁ、と頭を抱えて溜息を吐く。他にお願いする人もいるだろうのに、よりによって私とは。

「直人に祝ってもらえばいいじゃん」
「ヤダって言われたもん」
「え、私も嫌」
「そんなこと言わないで!」
「……せめて、他に5人くらいメンツ揃えてくれたら、混ざっても良いよ」
「別に2人でもよくない?」
「よくない!」

 呆れた。私は結婚もして子どももいるのに、どうして異性と2人きりで食事に行くと思うのだろう。旧知の中で向こうも結婚しているだとか、奥さんとも知り合いだとか、仕事の都合で、とかならまだわかる。しかし、そのどれにも当てはまらない。ひろ君だって、女性と2人きりで食事には行かない、筈、だ。

 しかも、私は同じ理由で一度断わっているのだ。それも今回同じ、航河君の誕生日。あの時は、ひろ君との結婚も決まり、異性と2人で食事は誤解されるのも嫌だし、なによりひろ君に申し訳ないとも思い、すっぱりさっぱりと断った。

“あ。それから連絡とらなくなったんだっけ”

「千景ちゃん冷たくなったなぁ」
「そりゃあさ? 私が独身で彼氏もいなくてって状態だったら、誕生日の一つや二つ、2人きりでも喜んで祝うよ? でも、私だって旦那も子どももいるし、誤解されたくないし、旦那に嫌な思いさせたくないし」
「……そうだよね」

 思いの外、あっさりと引くかもしれない。

「じゃあ、えっと、誰だっけ、千景ちゃんの友達で、俺のあったことある子」
「あーっと。摩央?」
「そうそう、摩央さん!」
「摩央がどうしたの?」
「摩央さんと一緒に祝って! それならいいでしょ!」「いい訳あるか!」

 摩央は、私の大学時代からの友人だ。
 一度、航河君と一緒に摩央がバイトをする居酒屋に食べに行ったことがある。それに、摩央を連れてシュヴァルツヴァルドへランチに行ったこともあるし、摩央自身も気に入ってくれたのか、何度か食べに来てくれていた。

「人の友達、巻き込まないでくれます?」
「女の子がいたら良いでしょ? 他に祝ってくれそうな子いないんだもん。お願い!」
「あーあー、分かった、分かったから」
「ほんと!? やったあ!」
「聞いてみるだけね、聞、い、て、み、る、だ、け!」「それでもいい! 有り難う!」

 強めに言うが、航河君はわかっているのだろう。……私は今まで、航河君のお願いには大抵応えてきた。『車買って』みたいなふざけたお願いは無視したが。『買い物に付き合ってほしい』だとか、『文化祭を案内してほしい』だとか、『旅行のお土産買ってきて』だとか。

 『誕生日を祝ってほしい』は、これで三度目だ。一度目は聞いた。二度目は結婚が決まり断わったアレだ。三度目は今になる。

 ──今回も、今までのように何とかしてくれるだろう、と。

 家に帰ってから、摩央にkiccaで連絡を入れる。

「ねぇ、今航河君と同じ職場なんだけど。航河君、覚えてる? 昔バイトで一緒だった……」

 すぐに返事が来た。どうやら暇らしい。

『航河君? え、マジ懐かしい! 覚えてるよ、ってか忘れないよ』
「そうだよねー……。あのさ、航河君が来月誕生日なんだけど。祝ってほしいって言われて。断わったんだけど、『摩央さんも誘って祝って! 2人きりじゃないならいいよね? お願い!』だってさ」
「ふふっ。航河君らしいね。誕生日がいつか分からんけど、金曜ならいいよ」
「……マジで」
「マジで。航河君久々に見たいし!」

 予想外にも、オーケーが出てしまった。断わってくれれば良いのに。……いや、うまく断れない私がいけないのか。仕方ない。二人きりではないから聞くだけ聞いてみよう。

「ひろ君?」
「何?」
「来月なんだけど、友達とご飯食べに行ってきてもいい? ……航河君と、摩央ちゃんなんだけど」
「いいよ、行っておいで」

 あっさりと許可が下りた。私が気にし過ぎなのだろうか。

 航河君と摩央に許可が出たことを連絡する。航河君には、『金曜日であれば大丈夫なこと』と『長居はしないこと』を条件に、食事に行くことを伝えた。よほど嬉しかったのだろうか、沢山の絵文字が入力されたメッセージが返信されてきた。
 ……彼は寂しがり屋なのだろう。

「あ、摩央。……そうだね、うん。私も本当に、そう思うよ。返す言葉もない」

 摩央からは、『りょーかい。予定空けるわ。ってか、ほんとに千景って航河君に甘いよね』と、そう返事が返ってきていた。