第22話:【回想】花火と心の声② (あの時、一番好きだった君に。)

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 広絵達が買ってきてくれた花火の二袋目も、半分ほどなくなりかけた頃。店長が公園に顔を出した。その手に、追加の花火と、飲み物を入れた袋を持って。

「お待たせ―! 今日は確認が多くて、遅くなっちゃった。ごめんね。これ、追加」
「店長ありがとー! 直人、店長から袋貰って」
「はいはい」

“あれはかかあ天下か?”

 まだ付き合ってもいないのに、既に直人は広絵の尻に敷かれていた。店長は『あれ? お前ら付き合ってんの?』と余計な言葉を口にして、広絵に『はぁ!? 付き合ってないし! やめてくれる!?』と、盛大に切れられ、その横で、直人は数えて3度目の落ち込みをみせていた。

“まるで主人に忠実な犬のようだわ……”

「……犬」

 私は心の声を思わず口にしてしまった。

「ふっ……ははは、千景さん、ククッ、それ、ダメ、あはは!」

 航河君にその意味が伝わったようで、大きな声で笑い始めた。

「え? 何? 何で航河笑ってんの?」
「い、いや。何でもない、ククク……」

 笑いを堪えるのに必死である。どうもツボにはまったらしい。訝しがる広絵は、それでもすぐに切り替えると、店長の差し入れからお酒を取り出した。そして2本手に取ると、直人に袋を店長に返させ、また花火を始めた。

「私も飲もうかな」
「千景ちゃんには、これがお勧め。桃のお酒なんだけど、アルコール感なくて、甘めなの。果物感強いし、アルコールの味、そんなに得意じゃないでしょう?」
「有り難うございます。そうなんですよね、あの鼻を抜ける感じが苦手で……」
「ジュースみたいだけど、度数は強いから飲み過ぎに注意してね」
「はぁい」

 差し出された缶を受け取る。プシュッと指にかけたプルタブを引くと、甘い桃の香りがふわり、と漂った。

「わぁ、良い匂い」

 クンクンと桃の香りを堪能し、それから口に含んだ。

「あ……美味しい」

 しっかりした桃の風味が、口全体に広がる。少しアルコールの味もするが、それも少なく、鼻に抜けるのは圧倒的な桃だった。少しもったりとした舌触りで、舌触りは重たい。今まで飲んだお酒の中で、個人的には2番目のヒットだ。1番目は蜜柑のお酒である。これも果実がふんだんに使用されており、蜜柑が大好きな私としては、アルコールが得意でなくても飲みたい逸品だ。

「美味しい?」
「うん、美味しい」

 ゴクゴクと飲み進めていく私に、航河君が問いかけた。

「俺にも一口」
「未成年!」
「一口ぐらいいいじゃん!」
「あっ!」

 航河君は私の手から缶を奪うと、一口、口に含めた。
「あ、ほんとだ。これ美味しい」
「でしょ?」
「うん。もうちょっと」
「私のなのに」
「帰りに買ってあげるから」

 そういってまた飲み始める。航河君はそれなりの量を飲んだと思われる缶を、私へと返した。

“間接キス……ですよね?”

「これはリピートだな」
「もう……ちゃんと後で買ってよ?」
「分かってる。俺も買って帰るし」
「自転車飲酒運転にならない?」
「危ないから引いていくよ。時間かかるけど良い?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ、帰る時は先コンビニ寄ってから帰ろうね」
「了解」
「……ねぇ、お前ら付き合ってんの?」
「……はい?」
「俺彼女いますけど。美織ちゃん」
「……残念」

 何が残念なのかはよくわからないが、口を尖らせて見せる店長はそんなに可愛くなかった。何を思ったか店長は、皆で花火をしに来たのに、公園の端っこで独りで花火を始めた。

 ──そうだ。航河君には、彼女がいるのだから。『美織ちゃん』という名の彼女が。私と同い年の、社会人の彼女が。アパレルの仕事をしているらしい。詳しくは知らないが、航河君が私に話したことのレベルでなら知っている。

「なんで店長俺に彼女いるの知ってるのに、あんなこと聞くんだろう」
「……さぁ。分かんない」

 チクリと痛む胸を、掌でギュッと握った。