なかなか広絵と直人が戻ってこない。コンビニはそんなに遠くない筈だが、30分経過しても一向に来る気配がしないのだ。
「あの2人遅いよね」
航河君も、同じことを思っていたらしい。この時期、大体何処のコンビニでも花火は売っているし、広絵達が向かったコンビニに売っているのは見たことがある。既に売り切れて入荷なし……なんてことはないだろう。
「遅いよね。何処か寄り道してるのかな」
「えーっ。俺ら待ってんのに?」
「……流石に無いか」
「盛り上がって帰ってこないとか?」
「……それはあるかもしれないね」
「あの2人、良い感じに見えるけど。千景ちゃんどう思う?」
「んー、そうねぇ。直人の方が広絵を気に入ってるというか、興味がある感じ? 広絵は、適当にあしらってるっていうか、弟なのか旧知の仲なのか……」
「直人、結構見て分かるよね?」
「だね。彼女と別れてから、なんか広絵にグイグイ行く感じしてる」
「俺の勘では、直人は広絵さんのことが好きだね」
「私の勘でも直人は広絵が好きだわ」
「だよねー」
「だわー」
私と航河君の意見が一致した。まぁ、あの2人を見た人は、十中八九同じことを言うだろう。それだけ、前面に出ているのだ。
「いたいた! お待たせー!」
「あ、広絵! 遅いよー!」
「ゴメンゴメン。直人がジュースや食べる物欲しいって言うからさ。それも選んでたら遅れた」
「広絵さんだって、『化粧直しが……』って、コンビニのトイレに籠ってたじゃん。俺のせいにしないでよ」
不貞腐れた直人が言う。
「ちょっと、それ言わなくてよくない? 広絵恥ずかしいんですけど!?」
バコっと肩を一発殴られた直人は、しゅん、となって広絵に『ごめんなさい』と謝っていた。
「店長来た?」
「流石にまだ。今日お客さん多かったし、もう少しかかるかもね」
30分では無理だ。あの店長は細かいし、一度確認し終わっても、また二度目三度目とゆっくりと丁寧に確認するだろう。そうして納得してから漸く、締めることが出来る性格なのだ。
「先始めようよ。広絵線香花火が良い」
「それ早くない? まずはこっちの手持ち花火……あ、ヘビやる? ヘビ」
「広絵やだ! それ追いかけてくる奴でしょ? 却下却下!」
自分の希望を広絵に却下され、また直人はしゅんとした。
“どう見ても、お似合いだと思うんだけどなぁ……”
今この瞬間に『付き合ってます』と言われたら、私も航河君もあっさりと至極当然のように『でしょうね』と答えるだろう。
「千景さん? 広絵さん達始めちゃったから、俺らも花火やる?」
「そうだね。始めようか」
直人から受け取った花火を手に、航河君はその場にしゃがみこんだ。
「こういう時ライターあるって便利だわ」
「未成年が何を言う」
「もうすぐ誕生日だもん」
「でもまだでしょ?」
「千景さんの前では吸わないから良いの!」
「えっ、そういう問題?」
「そういう問題」
カチッとライターに火を灯し、花火の先へと近付ける。点火した花火はシャァアァと独特の音を上げながら、煙と火花を散らした。鼻を突くニオイも、その美しさに気にならなくなる。
「お、凄い。ほらほら、千景さんも持って」
「はーい」
差し出された花火を持つと、航河君がライターで点火してくれた。航河君の花火は赤っぽい火花だったのに対し、私のは黄色っぽく、より自分が明るく照らし出されたような気がした。
「綺麗だよね、花火」
「ん。綺麗」
「航河君、今日彼女と花火大会行かなくて良かったの?」
「彼女は今日仕事だったの。誘ってみたけどね」
航河君は、花火を見つめたままそう答えた。
「そっか……」
言葉に詰まる。本当は航河君は、彼女と今日花火に行くのを凄く楽しみにしていたのかもしれない。でも、仕事では何も言えないだろう。
「という訳で、今日は千景さんと花火です」
「直人も広絵もいるけどね。店長来るし」
「あれはもう2人だけの空間でしょ」
顔を上げた航河君の視線の先にある、花火を持った直人と直人に追いかけられている広絵の顔は、満更でもなさそうに笑っていた。
「あの2人、付き合っちゃえば良いのに」
「……そうだね」
楽しそうに笑う2人を見てから、私は航河君へと視線を戻した。花火に照らされた航河君の横顔は、何処か寂しそうでとても綺麗だった。