第20話:【回想】お祭りの夜 (あの時、一番好きだった君に。)

スポンサーリンク

 「なんか今日、お客さん多いよね」
「あ、それ、花火大会じゃない?」
「花火大会あるの? 広絵行きたいなー」
「帰る頃には終わっちゃうね、花火したいなー」
「広絵もしたい! 仕事終わったら、やりに行かない?」
「えっ、今日? ラストまでじゃん。直人誘ってみたら? 来るでしょ」
「えーでも。2人かぁ」

 夏になった頃、バイトに新しく人が入ってきた。名前は直人。航河君と同級生らしい。人懐っこく、誰とでもすぐに仲良くなる直人が、店に馴染むのに時間はかからなかった。

「直人、彼女いなかったっけ?」
「この間別れたらしいよ?」
「んー……千景もついてきて」
「えっ。邪魔になるからやだ」
「何で邪魔なの? 航河も誘えばよくない?」
「彼女いるじゃん」
「花火大会の日にバイトしてるんだよ? それに、彼女もなんかちょっと変わってるみたいだし」

 確かに、今日のホールのメンツは、私に広絵、直人に航河君とそれに店長だ。だが、今日の仕事はラストまで、終わった頃には日付も変わっているだろう。何なら、もう既に眠い。

「直人ー!」
「なーに? 広絵さん」
「今日仕事終わったら、花火しない?」
「良いねぇ。やるやる! 千景ちゃんは?」
「私は……」
「航河、お前も来いよ」
「えー」
「どうせ予定ないんだろ?」
「あーはいはい。分かったよ」
「広絵さん、花火コンビニでいい?」
「うん、後で買いに行こうか」

 乗り気の直人と、全く乗り気でない航河君。きっと、航河君も私と同じ考えなのだろう。

「俺ら邪魔じゃない?」
「私もそう思う」

 ほら、やっぱり。

 最近、直人がよく広絵の話をする。それに、2人で出かけたりするようだ。直人の方が誘うみたいだが、邪魔しちゃあいけない気がする。直人も彼女がいない今なら。ついでに、なんとなく、航河君も2人が一緒にいる時は、間に入らないようにしている気がする。

「どうするの? 千景ちゃん行くの?」
「うーん……」
「俺をひとりにしないで!」
「……帰りは送って行ってよ?」
「当たり前じゃん。それはいつもと変わらんよ」

 いつも航河君は、仕事が一緒になると帰りに送ってくれる。『当たり前』という言葉が、何処かくすぐったい。少しだけ、体温の上がる感覚がした。

 花火をやると決まったら、直人の仕事のスピードが上がった。目に見えてわかる。

『毎回あれぐらい仕事してくれれば良いのに』

 そう言う広絵に向かって、

『毎回今日みたいに仕事上がりに誘えば効率上がるよ』

 と言った航河君は、広絵に肩を殴られていた。

「良いなぁ、皆花火行くの?」

 店長が羨ましそうに声をかけてきた。

「店長も行きます?」
「店閉めなかんもん。皆が帰った後にね」
「終わったらきたら良いじゃん。広絵達、そんなすぐに帰らないと思うよ」
「行く!」

 意外に皆乗り気だ。そんなに花火がしたかったのだろうか。ホールは私と航河君を除く3人のテンションが上がり、普段よりもハイペースで仕事が進んでいった。毎回、これくらい仕事をしてくれれば良いのに……。

 外では遠くに花火の音が聞こえる。ドォンドォンと身体に響くこの音は、夏の風物詩だ。音が重なると今は夜空にどんな大輪の花がどれだけ沢山咲いているのかと、想像を膨らませた。

 仕事が終わり、いそいそと帰る準備をする。広絵と直人は、コンビニへ花火を買いに向かった。私と航河君は、先に公園へと向かう。
 生暖かい風が頬を撫でた。じんわりと滲む汗が、夜でも暑さを物語っている。

「俺たちいないとダメなのかねー」
「いなくても良いと思うんだけどねー」

 公園のブランコに座り、軽く漕ぎながら2人で話した。誰もいない公園は、昼間とは違い静まり返っている。キィキィと私達がブランコを漕ぐ音と、耳に響く風を切る音、蝉の鳴き声だけが聞こえる。

「月が綺麗だね、空気が綺麗なのかな」
「今日は月大きく見えない? 俺の気のせい?」
「いや、私も大きいと思う。凄いね、近い」

 2人で空を見上げ、直人と広絵が来るまでの時間、優しい空気が2人を包んだ。