第19話:【現在】花火大会にて④ (あの時、一番好きだった君に。)

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 「仲良かったんだね? あの2人と」

 屋台を満喫して家に戻り、その戦利品を囲む。不意に、ひろ君が口を開いた。

「直人と航河君?」
「うん。凄い楽しそうだった。 一緒に行動しなくて良かったの?」
「『家族団欒の時間を邪魔しちゃいけない!』って、直人が気を遣ってくれたの」
「へぇ、優しいね」
「案外、夜にもう一度出直してナンパでもするんじゃない?」
「あの顔なら寄っていくかもしれないね。俺から見てもイケメンだったわ」
「でしょ? アレはナンパ成功するでしょう」
「彼女とか嫁さんじゃなくて、男同士で花火に来たのが意外だわ」
「航河君に聞いたけど、昔ずっと付き合ってた彼女と別れちゃったみたいなんだよね。私も知ってる子なんだけど」
「機会なくした?」
「のかなぁ。元々、別れてヨリ戻してを繰り返していたし、来るもの拒まずで遊んでいた頃もあるから……」
「落ち着いた頃に縁がなくなったか」
「可能性ありだね」

 男性から見てもイケメン。遊び人だし、思ったことははっきり言うが、直人には敵が少なかった。天真爛漫というか、性的な部分以外に対しては無垢と言うか。憎めない奴である。

 人間、意外と気を遣わない、素直な人の方が受け入れられるのかもしれない。

「なつの、あのおにいちゃんみたいなひととけっこんする!」
「直人?」
「なつののこと、かわいいっていってくれたし、いけめんだもん!」

 ドヤァと、何故か自信満々に主張する夏乃を、悲しそうな顔で見つめるひろ君が、少し可哀想だった。そりゃああれだけのイケメン、中々お目にかかれない。それに、ひろ君は自分でイケメンと言ってしまったのだ。

「まぁ……そうね、ママが言えるのは、見掛けだけで判断しちゃだめよ、ってことかしら」

 来るもの拒まずの直人は、本当にモテた。それが原因で女の子を泣かしたのも、一度や二度ではない。お店の前で待っている彼女が、翌週には別の子になっていることもあった。
 広絵と付き合うまで、かなり遊んでいた部類に入ると思う。
 一番驚いたのは、元カノがお店に来たと思ったら、裏口で刃物を振り回し、警察沙汰になったことだろうか。店の人間に怪我人は出なかったが、その元カノは自分自身を刺して救急車で運ばれた。店の裏口に残された血痕は生々しく、『こんなこと本当に起こるんだ』と、人生で二番目に衝撃を受けたことだった。

 余談だが、人生で一番衝撃を受けたことは、大学の卒業旅行で行った外国で、目の前で事故にあった男性が乗っていたバイクと共に大きく宙を舞ったことだろうか。自分のことではないのに、何故かその瞬間スローモーションになり、周囲の音が消えた。開いた口は塞がらず、ピクリとも動かない男性が救急車で運ばれて行くまで、ただただ動くことが出来ずに立ち尽くしていた。

「パパ選んでくれないの?」
「んー、だれもいなかったらぱぱでもいいよ!」
「何その仕方なく結婚してあげる感」

 追い打ちをかけられたひろ君は、静かに食べ終わった容器を片付け始めた。

「パパダメなの?」

 こっそり、小さな声で夏乃に聞いてみる。

「パパは、ママとけっこんしてるでしょ? なつのはママがだいすきだから、なつのがけっこんしたら、ママかなしいでしょ?」

 驚いた。まだ子どもなのに、こんなことを考えていたのか。

「ママにふられたら、けっこんしてあげてもいいけど、ママにふられるパパ、なつのもいやかも」
「ふっ……あはは! それもそうだね!」

 子どもは、時々鋭くて面白い発想をする。それを聞いた時は、成長に驚き感心するものだ。

 人混みに疲れ、お昼寝を挟みながら、買い物をして花火を待った。事前に聞こえる試し打ちなのか、花火の音を聞くと、今年もこの時期が来たと、確かに夏の訪れを感じた。日が落ち、往来の人間が増えた頃、夜空に大きな音が鳴り響く。

「ママー、ママのスマホひかってる」
「ありがと」

 表に出る準備をしていると、夏乃が私のスマフォを持ってきてくれた。
 kiccaに、直人からの連絡が入っていた。そこには、今日のことと、とても懐かしい写真が1枚。

『掃除したら出てきた奴。航河にも送ったんだけど、千景ちゃんにも送るね。懐かしいでしょ? 今日は久し振りに話せて楽しかった。航河のこと宜しく。またみんなで、会えるといいね』

「あぁ……皆、若いね」

 添付されていたのは、皆で花火をした時の写真だった。写真をそのままスマフォで撮影したのだろう。若干ピントが合っていない。手持ち花火から広がる火花と、しゃがんでピースをする私達が、その切り取られた時間の中で楽しそうに笑っていた。直人と、広絵と、航河君と、私。写真を撮ってくれたのは、店長だったっけ。
 航河君の隣に、私がいた。まだ、純粋にこの時間を楽しもうとする私が。

 胸の詰まる感覚に襲われ、言葉を失くしたその時、今日の花火大会で一番大きな花が、夜空に綺麗に咲いて、儚く消えた。