第18話:【現在】花火大会にて③ (あの時、一番好きだった君に。)

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 「いやー、ほんと懐かしい。ひっさしぶりだ、千景ちゃん」
「ねぇ。久しぶりだよ。直人、今何してるの?」
「最近はずっと営業してる。事務も少しやるけどね」
「そうなんだ」
「千景ちゃんは、航河と同じ職場なんだよね?」
「うん。でも、やってることは違うよ。私は事務だから」
「昔からパソコン触ってるイメージあるわ」
「なんでだろ」
「分かんない」

 目の前に、確かに直人がいた。航河君の時と同じ、変わっていない。そう、久し振りに会った直人は、相変わらずイケメンだった。あの時のまま。

「でもさ、航河に花火大会誘われるなんて何年ぶりだろう」
「もう小学生以来じゃない?」
「全然2人で行ってないよね?」
「わざわざ待ち合わせて行くような仲でもないしなぁ」
「間違いないわ」
「今日は、千景ちゃんに会えるかもって聞いたから来たの」
「そうだったんだ、じゃあ、会えて良かった」
「ほんと。無駄足になるところだったもん」

 会話が止まらない。昔を懐かしむように、口から言葉が溢れた。自然の表情も、笑顔になる。

「あ、千景ちゃんkicca教えてよ」
「うん、いいよ」
「誰か可愛い子いたら紹介して」
「直人、今彼女いないの?」
「いないよ。航河と一緒」
「紹介できる子が出来たらね」
「はいはい、宜しく」
 直人とkiccaを交換する。
「あ、俺ちょっと飲み物買ってくる。直人待ってて」
「はいよ」

 航河君も行ってしまった。

「……千景ちゃん、知ってた?」
「何を?」

 航河君がいなくなり、直人がこっそりと耳打ちするように喋り始めた。

「昔さ、皆でプリクラ撮ったの覚えてる?」
「うん、覚えてるよ」
「あの時さ、なんかデータを携帯に送れたじゃん?」
「うんうん。私もよく送ってた」
「航河さ、その時のデータ、ずっと持ってるの。アイツの持ってるスマホに、今も入ってんのよ」
「はー、物持ち良いね」
「何でか知ってる?」
「懐かしいから?」
「俺はね。千景ちゃんが写っているからだと思ってるよ」
「はぁ? まさか」
「なんなら、待ち受けにしてた」
「ウソ。全然イメージわかない」
「俺もビックリした。最近はやめてると思うけど。千景ちゃんと同じ職場だし、何かの拍子で見られるかもしれないからね」
「……衝撃だわ」
「知らないかもしれないけど、アイツ今迄結構千景ちゃんの話してたのよ」
「……」
「んで、今回も、『おんなじ職場になった』って、嬉しそうに」
「……そう、なんだ」
「まぁでも、今更だよね」
「……うん」
「アイツは、千景ちゃんのこと振ったんだから」
「……昔の話ね」
「そう、昔の話。それを意外と引きずってるんじゃないかなぁ。航河の方が」

 少しの沈黙。今更そんなことを言われたって。私にとって、航河君に告白して見事に振られたことは、思い出したくない過去である。時間が経ったって、振られたという経験は苦く心を刺激してくる。それだけ、当時好きだったという記憶も一緒に、私の心を支配するのだ。

「何の話?」

 飲み物を買った航河君が戻ってきた。

「なんにも。娘ちゃんの話してた」
「ふーん」
「邪魔しちゃ悪いし、そろそろ行くわ。なぁ航河」
「あ、もう行く?」
「おう。旦那さんと娘ちゃんとの家族団欒を、邪魔しちゃダメだろ?」
「まぁ……そうだな」
「それじゃ、千景ちゃん。kiccaありがと。また連絡するね」
「うん、楽しかった。またね」

 ひろ君と夏乃がいなかったら、このままずっと喋っていただろう。直人と、航河君と3人で。それだけ今この空間に、心地よい空気だけが流れていた。